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白い表紙に淡い色合いの挿絵

書籍名

医療・介護のための死生学入門

判型など

272ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2017年8月29日

ISBN コード

978-4-13-012063-0

出版社

東京大学出版会

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医療・介護のための死生学入門

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死生学は単に「死について」の学ではなく、死を生に伴い、また生が伴うものとして、「死生」を一体として考え、人間が死生をどう理解し対処してきたかについて、人文知を背景に広く考えようとする。その意味で、東京大学の死生学研究は死生学をthanatology (死の学問) というよりもdeath and life studiesとして捉え、人文社会系を中心とする学際的な研究プロジェクトを進めてきた。
 
死生学の一領域である臨床死生学は、臨床現場で実践の知としてはたらく学問である。医療機関、介護施設や在宅医療の場などで、患者や利用者本人と家族および医療とケアに携わる人々のニーズに応え、死生学が得た知見を医療とケアに活かすことができるようなかたちにして提供しようとする。
 
有限な人生を本人らしく生き切ることを支えるための医療と介護はどうあるべきか。臨床死生学を含めた死生学の研究者は、本人と家族らが最期までよりよく生きる力を得るための一助となることを願い、また、生命の危機にある人々とその家族らを支援する医療・介護従事者に対し実践力を増すための知を提供することを志している。
 
東京大学の死生学研究の拠点は大学院人文社会系研究科にある。同科では、先端的な研究拠点をつくるための国の競争的資金「21世紀 COE (センター・オブ・エクセレンス)」および「グローバルCOE」を獲得し、2002年度より10年間、医学系研究科、法学研究科、教育学研究科等の協力を得て死生学のプロジェクトを進めた。そして同プロジェクトを基礎として2011年度に死生学・応用倫理センターが発足した。
 
当初から東京大学の死生学を担ってきた教員は人文・社会科学系の何らかの領域の研究者であり、いわば学問の人たちである。それぞれの学問領域の作法に則って正攻法のアプローチをする。しかし、死生学が社会的に注目されるのは、私たちは誰もがいずれは死ななければならないが故に、自分や家族のこととして関心を持つためである。そうであれば、現実の人の生死にかかわる医療や介護の場をフィールドとする死生学をすることなしに死生学の拠点を標榜するわけにはいかない。
 
このような次第で、臨床場面に直結する研究活動をしてきた清水哲郎 (臨床倫理学、臨床死生学) と榊原哲也 (哲学)、会田薫子 (臨床倫理学、臨床死生学)、山崎浩司 (死生学、社会学) はおもに臨床現場に関る死生学を担った。また、島薗進 (宗教学、死生学) は21世紀COE以来の死生学プロジェクトのリーダーとして、池澤優 (宗教学、死生学) は死生学・応用倫理センターのセンター長として、堀江宗正 (死生学、宗教学) は同センター専任教員としての活動をもとに執筆した。さらに、法学研究科の樋口範雄名誉教授は死生学プロジェクトの当初からの協力者であり、死生の問題に関して法の側から有益な助言を頂いた。
 
大学院人文社会系研究科では臨床死生学分野の活動の一環として、2007年度以来、「医療・介護従事者のための死生学」セミナーを毎年開催し研鑽の場を提供してきた。著者たちはこのセミナーの主要な講師である。本書には同セミナーでの講義を軸に寄稿して頂いた。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 特任教授 会田 薫子 / 2018)

本の目次

はじめに (清水哲郎・会田薫子)
1  死生学とは何か――過去に学び,現在に向き合い,未来を展望する (池澤 優)
 1 序――あるサナトロジーの教科書
 2 死の認知運動と死の過程
 3 東京大学「死生学」プロジェクトの死生学構想
 4 なぜ過去 (歴史) に向かい合う必要があるのか――私の「死生学」構想
2  臨床死生学の射程――「最期まで自分らしく生きる」ために (清水哲郎)
 1 [臨床]死生学について
 2 口から食べられなくなった時
 3 人生のために生命を支える
 4 皆で一緒に決めましょう―― 意思決定プロセスの進め方
 5 エンドオブライフ・ケア
 6 おわりに
3  意思決定を支援する――共同決定とACP (会田薫子)
 1 はじめに
 2 自己決定から共同決定へ
 3 事前支持からACPへ
 4 ACPへのフレイルの知見の導入
4  死生のケアの現象学 (榊原哲也)
 1 はじめに
 2 「現象学」という哲学
 3 ベナー/ルーベルの現象学的人間観
 4 ベナー/ルーベルの現象学的看護理論
 5 死生のケアへの現象学的視点
5  死と看取りの宗教心理――自己の死と他者の死のつながり (堀江宗正)
 1 自己の死
 2 他者の死
6  死別をコミュニティで支えあう――地域協働的な死別体験者支援 (山崎浩司)
 1 はじめに
 2 理論的背景とアプローチ
 3 死別をコミュニティで支えあうための具体的取り組み
 4 結論
7  終末期医療と法的課題――アメリカとの比較から (樋口範雄)
 1 はじめに――医療技術の発展とそれに対する対応
 2 アメリカの終末期医療と医療倫理
 3 終末期医療についての日本における法的課題
8  スピリチュアルケア――その概念と歴史的展望 (島薗 進)
 1 スピリチュアリティとは何か
 2 欧米における現代スピリチュアルケアの興隆と日本への移入
 3 日本におけるスピリチュアルケアへの宗教者の関わり
 4 東日本大震災とスピリチュアルケア
 5 宗教者による自殺防止・自死遺族支援の活動
 6 おわりに
 

関連情報

書籍紹介:
「上毛新聞」(2018年3月4日)
 

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