コミュニケーション・ダイナミクス2 高齢者介護のコミュニケーション研究 専門家と非専門家の協働のために
本書は、現代日本が抱える深刻な課題である介護についての議論を、専門家社会におけるコミュニケーションの視点から整理した論集である。とくに専門家間の協働、専門家と非専門家との相互理解、専門家の実践、制度と専門家の観点から介護について検討している。コミュニケーションという用語はさまざまな意味をもっているが、ここではその語源である「共有」として使用している。
専門家間の共有は、介護の場合、異なる専門家間の協働が必要になるため、専門家間よりさらに難しい問題に直面することになる。この問題について、ボトムアップに取り組む宮城県気仙沼在宅ワーキンググループ、トップダウンに取り組む鹿児島県姶良保健所の試みを取り上げた。ここではこの「権威勾配」という概念で理解される困難がどのように対処されているかを⾒ることができる。
専門家と非専門家との相互理解の問題については、カフェ型ヘルスコミュニケーション、応用演劇、メディエーションの話題を取り上げた。すべてワークショップという実践に結びつくものである。ワークショップは、人が集い、言語だけでない交流を促進する場を提供することにより、言語が前提とする社会的基盤を考え直す場になる可能性をもっている。応用演劇は、さらにワークショップでの理解を多くの人に伝えられる可能性をもつ。メディエーションは、法における紛争解決の手法として発展してきたが、その基底は人が集う場において、それぞれが表現を行う事を促進する手法である。
専門家の実践では、グループホーム(認知症対応型共同生活介護施設)における専門家間、専門家と高齢者を含む非専門家の相互行為がいかに精緻に行われているかを明らかにしている。ここでの知見は、これからの介護における専門家の行動に関する理論的な基礎となっている。
制度と専門家では、救急現場の困難な状況に対する救急医療を担う医師の声と、問題の解決に深く関係する成年後見制度とその問題点を取り上げた。支援を受けて生きること、最後をむかえることをどのように考え、どのように設計するかはこれから時間をかけてしっかりと議論をしていく必要がある。
本書は、社会に流通する介護に関する⾔語、概念を、介護に関係する現場、人を基礎にして考え直したものになっている。その意味では、われわれが直面する超⾼齢社会に対して即効薬を提供するものではないが、超高齢社会における介護のこれからを考える手がかりを多く含むものになっている。
(紹介文執筆者: 情報学環 教授 石崎 雅人 / 2017)
本の目次
第I部 多職種連携
第1章 宮城県気仙沼市における多職種連携の基底
第2章 地域包括ケアシステムの死角——県型保健所の役割
第II部 専門家と非専門家の場づくり
第3章 高齢者の健康・介護問題をめぐるカフェ型ヘルスコミュニケーション——みんくるカフェと変容的学習
第4章 演劇を通じた介助・介護経験の再解釈と伝達の試み——「地域の物語2014,2015」の実践から
第5章 超高齢社会におけるメディエーションの可能性——高齢者・家族・介護従事者を守るコミュニケーション
第III部 専門家の実践
第6章 介護活動を表現する身体——介護者のカンファレンスにおける身体相互作用
第7章 ケア活動を組織する諸行為の規範的結びつき——専門職に宿るものの見方とそれに基づく実践に注目して
第IV部 人と制度
第8章 持続可能な超高齢社会のコミュニケーションデザイン——社会コミュニケーション・医療・死生学
第9章 高齢者を支える成年後見制度と意思決定支援——高齢者の安心を約束する制度へ向けて
おわりに