東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

茶色っぽい写真の表紙

書籍名

憲法II 総論・統治

著者名

渡辺 康行、 宍戸 常寿、 松本 和彦、工藤 達朗

判型など

488ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年9月

ISBN コード

978-4-535-52479-8

出版社

日本評論社

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憲法II

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憲法学は、憲法総論、基本的人権、統治機構の3つのパートから構成されている。本書は、このうち憲法総論、統治機構の領域に関する、私を含む4人の共著者による教科書である。前著『憲法 I』から4年経って、憲法学の全体をカバーしたことになる。
 
私が研究者の途に入った1990年代半ば以降、人権論の研究対象となる判例が蓄積されて、それまでの教科書の人権論の記述を大幅に改める必要が出てきた。また、法学教育の分野で法科大学院制度がスタートし、研究者も人権に関する判例の精緻な分析を学生にしてみせなければならなくなった。このため、人権論の教材については、かなりイノベーションが進んだように思われる。前著『憲法 I』は、成功したかどうかはともかく、共著者の意図としては、その決定版を目指すものであった。
 
他方、同じ1990年代半ば以降は、政治改革、行政改革、地方分権改革、司法制度改革など、統治機構上の制度改革が続いてきた。これらの制度改革は、日本国憲法 (憲法典) を改正するものではなかった。しかし、憲法は統治機構の大枠を簡潔に定めるにとどめ、その具体化を立法に委ねている。その委託を受けて制定された国会法、内閣法、裁判所法、地方自治法などの法律は、憲法典と密接な関連を持つ点で普通の法律とは区別されるものとして、「憲法附属法」と呼ばれている。
 
見方を変えれば、憲法の授業は、憲法典の文言やその趣旨だけを扱うわけではない。「生きる憲法」を考えるためには、この種の憲法附属法とその運用についても扱うことが必要である。それは、判例なしに人権の現実の姿を教えることができないのと同じである。憲法の教科書の中には、こうした憲法附属法の重要性を強調してきたものもある。しかし、「憲法改正なき憲法改革」とも言われる一連の憲法附属法の改正とその運用上の課題について、詳しく説明したものはまだ乏しい。本書は、この点に特に重きを置いている。
 
私自身は、「日本憲法史」「権力分立と法の支配・法治国家」「平和主義」そして「地方自治」の章を担当した。権力分立については、権力を分割して抑制・均衡させることで国民の権利自由を守るという自由主義的な理解が、日本では一般的である。これに対して、本書は全体として、権力分立が適正な統治を実現するための組織原理でもあり、民主主義とも密接な関連を持つという、ドイツで現在有力な見方 (機能的権力分立論という) を採用した上で、憲法典や憲法附属法の問題点を検討している。そのため、権力分立を総論的に説明するに当たっては、他の共著者が執筆する各論の記述と、かなり丁寧に調整した。
 
憲法9条は、政治や世論において最も議論が盛んな条文である。にもかかわらず、今の憲法研究者は9条論を避ける傾向があるのではないかと、先輩世代の先生方が心配の声を漏らされることがある。その筆頭格としては私が念頭に置かれてきたのではないか…というと被害妄想かもしれないが、客観的な概説を心がけつつ、平和主義の現在と課題に関する一章を執筆できたことは、大学で憲法を教え始めて20年間経ってようやく一つ宿題を提出できたという気がしている。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 宍戸 常寿 / 2021)

本の目次

第1部 総 論
 第1章 憲法の意味と役割
 第2章 日本憲法史
 第3章 国民主権と天皇制
 第4章 権力分立と法の支配・法治国家
 第5章 平和主義
 第6章 憲法の変動と保障
 
第2部 統 治
 第8章 代表民主制
 第9章 議院内閣制
 第9章 国 会
 第10章 内 閣
 第11章 裁判所と司法権
 第12章 違憲審査制
 第13章 財 政
 第14章 地方自治

関連情報

関連書籍:
渡辺康行、 宍戸常寿、 松本和彦、工藤達朗『憲法I – 基本権』
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00022.html
 
はしがき:
話題の本わしづかみ (Web日本評論 2020年10月22日)
https://www.web-nippyo.jp/21101/
 
書評:
村西良太 評 (『法学セミナー』 2021年3月号)
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/8470.html
 

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