東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

6冊セット、それぞれの表紙は白地にグラデーションカラーのアクセント

書籍名

近代日本宗教史 全6巻

著者名

島薗 進、 末木 文美士、 大谷 栄一、 西村 明 (編)

判型など

A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年

ISBN コード

[1]維新の衝撃  9784393299616
[2]国家と信仰  9784393299623
[3]教養と生命  9784393299630
[4]戦争の時代  9784393299647
[5]敗戦から高度成長へ  9784393299654
[6]模索する現代  9784393299661

出版社

春秋社

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近代日本宗教史 (全6巻)

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講義で近代日本の宗教について講じると、受講生たちが見せる反応はさまざまである。とりわけ「無宗教」を自認する多くの学生たちは、授業の初めには各宗教についての説明を、どこかしら他人事のように聞いている。しかし回が進むと、諸宗教どうし、あるいは宗教と国家のあいだ、さらには宗教と他の社会領域とのはざまで展開されてきた交渉過程のある種の結果として、現在の自分たちのものの見方や価値観があると気づき、宗教というものが実は身近で、かつ混迷をきわめる現状を理解する上でも重要な課題として浮かび上がってくることに新鮮な驚きを見せる。
 
本シリーズは、そうした近代日本の宗教史を真正面に据えた、これまでにない論文集であると言える。この分野で活躍する80名以上の執筆陣を迎え、宗教をめぐる制度や政策、宗教者や思想家の言説、宗教にまつわる諸実践などについて、論文とコラムによって縦横に論じている。
 
6巻の構成は、時代順となっている。近代と銘打っているが、数世代前から同時代まで、幕末・明治期から平成にいたる約150年をカバーしている。あえて元号にもとづく時期区分を設けたのは、それぞれの時代の雰囲気をわかりやすくとらえる意図もあるのだが、それによって、天皇の代替わりが時代の風潮に大きく作用したという近代日本の歴史的特徴や、立憲君主制と象徴天皇制という戦前・戦後の国家体制に内在する一見とらえがたい宗教的性格も視野に入ってくるはずだ。また、日本を対象にしているが、国際的な動きに目配りが必要なところも多い。例えば近代日本の仏教を理解する上では、東アジアばかりではなく、インドやヨーロッパ、アメリカなど他地域の宗教動向が大きな影響を与えていたりもする。
 
各巻の冒頭には編者4名から読者に向けた巻頭言が置かれ、続いて第一章の総論を編者で分担して執筆した。各章とコラムでは、それぞれ時代の宗教をとらえる上で特徴的なテーマを設定している。代表的・典型的な事例から近年になって新たに掘り起こされた事実まで具体的にわかりやすく紹介され、同時にその章のテーマについてその巻の時代の特徴が概観できるように記述されている。全巻通して意識されているのは、「宗教」と「非宗教(世俗)」との境界線とそれに縁取られたそれぞれの領域の時代ごとのあり方である。巻や章によっては、戦争や観光や消費社会など、一見宗教とはまったく無関係であるかのようなトピックがとりあげられているのも、時代ごとの宗教の輪郭を浮かび上がらせる工夫とみることもできる。
 
読み進めていくと、さまざまなトピックが章を越えて、また巻をまたいで関連しあっていることに気づくだろう。なので、はじめから全巻通しで読み進めてもよいが、途中で挫折しそうだなという人は、最後からでも、もっとも気になるトピックからでも読み始めていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 西村 明 / 2022)

本の目次

●第1巻『維新の衝撃:幕末~明治前期』
第一章 総論 ―― 近世から近代へ (末木文美士)
第二章 天皇、神話、宗教 ―― 明治初期の宗教政策 (ジョン・ブリーン)
 ―― コラム[1]梵暦運動 (岡田正彦)
第三章 国体論の形成とその行方 (桐原健真)
 ―― コラム[2]儒教と近代 (小島毅)
第四章 宗教が宗教になるとき ――啓蒙と宗教の近代 (桂島宣弘)
 ―― コラム[3]妙好人像の変貌 (岩田真美)
第五章 近代神道の形成 (三ツ松誠)
 ―― コラム[4]巫女と女性神職 (小平美香)
第六章 新宗教の誕生と教派神道 (幡鎌一弘)
 ―― コラム[5]仏書の近代化 (万波寿子)
第七章 胎動する近代仏教 (近藤俊太郎)
 ―― コラム[6]浄土真宗の中国布教 (陳継東)
第八章 キリスト教をめぐるポリティクス (星野靖二)
 
●第2巻『国家と信仰:明治後期』
第一章 総論 ―― 帝国の確立と宗教 (末木文美士)
第二章 国粋主義・実験・煩悶 (岩田文昭)
 ―― コラム[1]文部省による宗教行政の掌握 (江島尚俊)
第三章 近代と格闘する仏教 (福島栄寿)
 ―― コラム[2]教誨師 (繁田真爾)
第四章 キリスト教会の外へ (赤江達也)
 ―― コラム[3]近代の戦争記念碑 (粟津賢太)
第五章 国家神道と教派神道 (齋藤公太)
 ―― コラム[4]明治聖徳論 (佐藤一伯)
第六章 アカデミズムの中の宗教 (林 淳)
 ―― コラム[5]神智学と近代宗教 (吉永進一)
第七章 戦争と社会問題 (小川原正道)
 ―― コラム[6]生殖・政治・民俗 (岩田重則)
第八章 明治の終わりと宗教 ――「皇室+神社」が当たりまえになるまで (平山昇)
 
●第3巻『教養と生命:大正期』
第一章 総論 ―― 大正宗教史の射程 (大谷栄一)
第二章 大正の教養主義と生命主義 (碧海寿広)
 ―― コラム[1]生命と霊性 (安藤礼二)
第三章 心霊と身体技法 ―― 霊動するデモクラシー (栗田英彦)
 ―― コラム[2]キリスト教とハンセン病 (杉山博昭)
第四章 近代宗教とジェンダー ―― 明治・大正期の女性と宗教 (佐伯順子)
 ―― コラム[3]「念じて植える」―― 寄進植え (岡本貴久子)
第五章 地域社会と神社 (畔上直樹)
 ―― コラム[4]御真影 (小野雅章)
第六章 社会事業と宗教的共同体 (永岡崇)
 ―― コラム[5]南島とキリスト教 (一色哲)
第七章 天皇信仰の展開 (藤本頼生)
 ―― コラム[6]大正モダンと明治神宮 (今泉宜子)
第八章 日系仏教の海外への拡がりと思想交流 (守屋友江)
 
●第4巻『戦争の時代:昭和初期~敗戦』
第一章 総論 ―― 総力戦体制下の新たな宗教性と宗教集団 (島薗進)
第二章 思想と宗教の統制 (植村和秀)
 ―― コラム[1]霊性の詩学 (若松英輔)
第三章 植民地における宗教政策と国家神道・日本仏教 (川瀬貴也)
 ―― コラム[2]天皇機関説と筧克彦 (西田彰一)
第四章 戦争協力と抵抗 (大谷栄一)
 ―― コラム[3]懺悔のラジオ講演者・永田秀次郎 (坂本慎一)
第五章 昭和初期の新宗教とナショナリズム (對馬路人)
 ―― コラム[4]国体論 (昆野伸幸)
第六章 戦争・哲学・信仰 (藤田正勝)
 ―― コラム[5]近代の日中仏教交流 (エリック・シッケタンツ)
第七章 超国家主義と宗教 (藤田大誠)
 ―― コラム[6]仏教の南方進出 (大澤広嗣)
第八章 戦時下の生活と宗教 (坂井久能)
 
●第5巻『敗戦から高度成長へ:敗戦~昭和中期』
第一章 総論 ―― 体制の転換とコスモロジーの変容 (西村明)
第二章 占領と宗教 (ヘレン・ハーデカ)
 ―― コラム[1]国旗・国歌 (辻田真佐憲)
第三章 戦後政治と宗教 (中野毅)
 ―― コラム[2]道徳教育と宗教 (齋藤知明)
第四章 戦後知識人と宗教 ―― 吉本隆明の親鸞論 (中島岳志)
 ―― コラム[3]戦後キリスト教と人権思想 (森島豊)
第五章 戦後の宗教とジェンダー (猪瀬優理)
 ―― コラム[4]戦後日本の仏教学 ―― 国体論から国際論へ (オリオン・クラウタウ)
第六章 慰霊と平和 (西村明)
 ―― コラム[5]石牟礼道子と霊性 (萩原修子)
第七章 都市化と宗教 ―― 高度経済成長期の東京を中心に (寺田喜朗)
 ―― コラム[6]山岸会とコミューン (島田裕巳)
第八章 大衆的メディアの時代の宗教表象 (姜 竣)
 ―― コラム[7]カルト問題と関わった三〇年(一九八九~二〇一九) (櫻井義秀)
 
●第6巻『模索する現代:昭和後期~平成期』
第一章 総論 ―― 信仰共同体への帰属を超えた宗教性のゆくえ (島薗進)
第二章 政教分離訴訟の展開 ―― 争われ続けてきた「宗教」(塚田穂高)
 ―― コラム[1]巡礼ツーリズム (岡本亮輔)
第三章 葬祭仏教と社会参加仏教 (高橋原)
 ―― コラム[2]人口減少時代と宗教 (川又俊則)
第四章 消費社会と宗教の変容
    ―― 聖なるものへの奉献から自己への奉献/投資へ (堀江宗正)
 ―― コラム[3]妊娠・出産のスピリチュアリティ (橋迫瑞穂)
第五章 ポスト世俗主義時代の技術と資本主義、そしてアニメの潜在性 (川村覚文)
 ―― コラム[4]人文学の死 ―― 震災と学問 (磯前順一)
第六章 縮図としての沖縄 (及川高)
 ―― コラム[5]宗教の災害への応答 (稲場圭信)
第七章 癒しの力としての宗教・水俣 (飯嶋秀治)
 ―― コラム[6]生命倫理 (前川健一)
第八章 霊性と宗教 ―― 平成期 (鎌田東二)

関連情報

編者による書籍紹介:
島薗進「新たな近代日本宗教史の展望 (上) ―― 宗教教団ではない宗教性への関心」(じんぶん堂 powered by 好書好日 (朝日新聞社) 2021年10月7日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14432412
 
島薗進「新たな近代日本宗教史の展望 (下) ――「近代」「日本」「宗教」の捉え返し」(じんぶん堂 powered by 好書好日 (朝日新聞社) 2021年10月14日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14432433
 
大谷栄一「いま、近代日本の宗教史がおもしろい!幕末から平成まで初の通史 ――『近代日本宗教史』の刊行つづく (上) 」 (じんぶん堂 powered by 好書好日 (朝日新聞社) 2021年3月18日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14190978
 
大谷栄一「宗教と非宗教と宗教的なもの 戦前は神社も宗教ではなかった ――『近代日本宗教史』の刊行つづく (下) 」 (じんぶん堂 powered by 好書好日 (朝日新聞社) 2021年3月25日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14191098

末木文美士「近代日本の歴史を動かしてきたのは宗教だった ――『近代日本宗教史』刊行に寄せて (上) 」 (じんぶん堂 powered by 好書好日 (朝日新聞社) 2020年10月1日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/13767610

末木文美士「もう一つの近代神道 ――『近代日本宗教史』刊行に寄せて (下) 」 (じんぶん堂 powered by 好書好日 (朝日新聞社) 2020年10月8日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/13778040
 
書籍紹介:
「宗教史から見えてくる日本 シリーズ本、相次ぎ刊行 近代を解明する鍵に・国際的な視座で問い直し」 (朝日新聞夕刊/デジタル版 2021年4月21日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S14879383.html
 
書評:
「『近代日本宗教史』全6巻 島薗 進・末木文美士・大谷栄一・西村 明 編」 (キリスト新聞)
http://www.kirishin.com/book/52231/

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