東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

パズルピースになった球体と紫のシリーズ名

書籍名

いま宗教に向きあう 2 隠される宗教、顕れる宗教 国内編II

判型など

268ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2018年10月25日

ISBN コード

9784000265089

出版社

岩波書店

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

隠される宗教、顕れる宗教

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本書は、「いま宗教に向きあう」の2巻目である。この4巻シリーズは、2000年代以降の国内外における宗教情勢の見取り図を提供するために編集したものである。宗教の存在を抜きには理解が困難な、複雑な社会事象が増えている。しかし、報道や他分野の研究者の見解に宗教学の研究蓄積があまり活かされておらず、平板で一面的な理解が多く流通している。そこで、学術的水準を保ちつつ、わかりやすく解説することを目指した。1・2巻が国内編、3・4巻が世界編で、奇数巻はかつての宗教が現在どうなっているかという視点から、伝統宗教・新宗教・スピリチュアリティの現状や、グローバル化のなかでの宗教の多様化などを論じた。他方、偶数巻は宗教と政治や社会との関わりについて、さまざまな角度から切り込んだ。
 
読者への理解の糸口として、各部の冒頭に「争点」という短いコラムを掲載した。これは、宗教学内外において、どのようなテーマがホットな議論として存在し、それに対してどのような主張が見られるのかについて示し、導入とするものである。
 
私が担当した2巻は、宗教離れや宗教の個人化が進んだかに見えた20世紀後半に対し、今世紀に入り再聖化・脱私事化へと向かっていることを踏まえ、私たちが「宗教」であるととらえてきたものがどのようにして社会の表側から姿を潜め、他方でこれまでとは別の形で登場してきているかをとらえようとしたものである。
 
第一部「「政教分離」のポリティックス」では、現在の宗教のあり方に政治との関わりからアプローチした。戦前に存在したとされる「国家神道」の体制は、二〇〇〇年代の政教関係においてはどのように存続・変容・消滅しているのだろうか。政党と宗教教団の関わりや、宗教的な保守思想や天皇崇敬・皇室論、戦死者慰霊・顕彰、政教分離訴訟などから、戦前から戦後にかけて大きくねじれた宗教と政治の関係性の今日的展開を問うている。
 
第二部「宗教の「公益性」をめぐって」では、「公益性」・「公共性」を軸に、「宗教」と「世俗」社会の関わりについてさまざまな角度からアプローチした。諸宗教の台所事情をめぐる問題、宗教者の社会貢献における「心のケア」という表現、自死念慮者や自死遺族を支援する仏教者の活動とねらい、宗教法人の公益性と税制、フェミニストの神学者たちの言説と実践などを通して、社会との認識のズレをはらみつつも発揮される宗教の公共性・公益性を浮き彫りにしている。
 
第三部「見えない宗教、見せる宗教」は、従来の宗教の輪郭を脱して拡散し、別の姿で顕れる様相をとらえようとしたものである。宗教 (者) のメディアへの登場や、メディア側の宗教の扱い方の変化、「無宗教」として語られる日本文化論、自己啓発セミナーなどの心理宗教テクニック、医学・医療の場における宗教の現れ方や向きあい方の困難から、とらえ難い宗教の現在的展開をつかもうとした。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 西村 明 / 2021)

本の目次

序論 (ポスト)世俗化論と日本社会…………… 西村 明
 
一 「政教分離」のポリティックス
 【争点1】 「国家神道」は復活しているのか?
第1章 宗教が政治に関わるということ……………塚田穂高
第2章 召還される「国家神道」──保守政治・宗教右派・象徴天皇の交錯…………… 奥山倫明
第3章 錯綜する慰霊空間──ポスト戦後的状況のなかで……………西村 明
第4章 宗教判例の戦後と現在……………住家正芳
 
二 宗教の「公益性」をめぐって
 【争点2】 金儲け? それとも無私の奉仕?
第5章 大震災後の宗教者による社会貢献と「心のケア」の誕生……………高橋 原
第6章 僧侶による“脱”社会活動──自死対策の現場から……………小川有閑
第7章 宗教法人の公益性──二つの法人制度の比較から……………竹内喜生
第8章 日本におけるキリスト教フェミニズムとその公益性……………ミラ・ゾンターク
 
三 見えない宗教,見せる宗教
 【争点3】 宗教のメディア露出は,宗教の衰退なのか?
第9章 日本文化論の中の宗教/無宗教……………星野靖二
第10章 宗教の社会活動と公共放送──臨床宗教師のテレビ表出を中心に……………榎本香織
第11章 心理宗教テクニックと現代日本社会……………小池 靖
第12章 ケア・宗教・世俗化における言説とその語り方をめぐって──何が顕れ,何が隠されるのか……………古澤有峰

関連情報

書評と紹介:
【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『いま宗教に向きあう』全4巻 堀江宗正、池澤 優、藤原聖子、西村明 編 (KiriShin | キリスト新聞社ホームページ)
http://www.kirishin.com/book/51152/
 
岩田文昭 評 (『宗教研究』94巻1号 pp.132-143 2020年6月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rsjars/94/1/94_132/_pdf/-char/ja
 
中野毅 評 (『宗教と社会』第26号 p.125 2020年6月)
http://jasrs.org/publication/journal2.html#vol26
 
宗教と政治・社会との関係を「見取り図」に (『朝日新聞』 2018年10月13日)
https://book.asahi.com/article/11882192
 
トークイベント:
「いま宗教に向きあう」 (上智大学 2019年2月17日)
https://www.sophia.ac.jp/jpn/news/griefcare/2018/itd24t000002yy3p-att/20190217talkevent..pdf

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