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書籍名

いま宗教に向きあう 3 世俗化後のグローバル宗教事情 〈世界編I〉

判型など

286ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2018年11月22日

ISBN コード

9784000265096

出版社

岩波書店

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世俗化後のグローバル宗教事情

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シリーズ「いま宗教に向きあう」は、「私たちはどこからどこへ向かっているのか」を「宗教」という参照点から大局的にとらえたものです。本シリーズには、「現代と宗教」をテーマとするこれまでの論集にはあまり見られない特色があります。
 
第一に、宗教研究を専門とする執筆者が中心であることです。2000年代に入って、J・ハーバーマス、C・テイラーといった著名な社会学者、哲学者等が宗教に関する書を出し、それに触発された議論が国内でも広がりました。しかし、世俗化後の宗教復興、宗教の私事化などは20世紀から宗教学者も議論してきたことなのです。そこで2000年以降の事象や諸分野での議論を踏まえつつ、宗教学の蓄積を改めてまとめ、ヴァージョンアップし、参照されやすい形で提供しようと考えました。各巻の「争点」では、諸分野での議論と宗教学の議論を突き合わせ、論争の見取り図を示すことでバランスを取るようにしました。
 
第二の特色は、いわゆる「世界の諸宗教」だけでなく、世間で「宗教」と見なされていない個人的な信念や漠然とした宗教的志向性や行為・慣習をも対象に含めている点です。これは宗教現象の多様化を押さえたというだけにとどまりません。従来の「宗教」という言葉が、個人の内面的信仰こそ本質だとするような西洋近代の宗教観を前提としていたことに対して、国内外の研究者の間で反省が進んだことを反映しています。
 
本シリーズはさまざまな具体的事例を扱いながらも、これらの問題意識を根底に置いているため、大事件のたびに左右されるジャーナリストや著名人による論評とは異なります。宗教を恒常的に観察する者からの情報を盛り込み、事例を大きな歴史的・社会的文脈の中に位置づけ、一般性のある理論で整理することにより、「いま宗教に向きあう」のに必要な耐久性のあるパースペクティヴを提案するものです。
 
この第3巻〈世界編1〉は、世界の宗教がどこからどこへ向かっているのかを、理論と具体例の両方からとらえることをねらいました。あれほど世界を震撼させたISも、2017年にはほぼ消滅したという報道がありました。数年で状況が変わる国際ニュースを表面的に追うのではなく、この先起こることを歴史のなかに位置づけられるように、序論では、現代宗教現象を総合的に理解するための見取り図を、近代派・超近代派・伝統回帰派の3つの流れに沿って示しました。各章は、世界各地域の専門家による事例研究から成り、センセーショナルな事件の背後で進行する日常的信仰・実践の変化、従来の「宗教」の枠にはまらない宗教形態の出現、国境を越えた相互影響に関する現象をカバーしています。4つの「争点」はそれぞれ、世俗化、宗教とテロの関係、スピリチュアリティの社会的特徴、宗教のグローバル化に関して、宗教学内外でどのような議論があるかをまとめたものです。学生の皆さんには、本書を通して新しい知識を吸収するだけでなく、既に持っている知識や経験と比べ、重なりやズレから新たな発見を得ていただければと思います。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 藤原 聖子 / 2020)

本の目次

序 論 二〇世紀から二一世紀への流れ………藤原聖子
 【争点1】 結局,宗教は衰退したのか,していないのか?………藤原聖子

一 伝統的宗教の復興/変容
 【争点2】 イスラームはテロを生む宗教なのか?………藤原聖子
第1章 日常生活のイスラーム化──イスラームの政治化に続くもの………八木久美子
第2章 インドネシアの医療とイスラーム復興──再創造された「預言者の医学」………嶋田弘之
第3章 聖と俗の混紡──現代イスラエルにおけるユダヤ教の諸相………志田雅宏
第4章 悪魔祓い騒動からレジオナール運動まで──ルーマニア社会の変動と連続性………新免光比呂
第5章 ロシアにおける伝統宗教の変容──ソ連時代の継承と新しい展開………井上まどか
第6章 気功にみる中国宗教の復興と変容………宮田義矢

二 新宗教運動・スピリチュアリティの現在
 【争点3】 オルタナティヴか,体制順応か?………藤原聖子
第7章 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の歴史と現状──韓国宗教史からの検討………古田富建
第8章 「ゲルマン的ネオ・ペイガン」は何に対抗しているのか──ドイツの「ゲルマン的ノイ・ハイデントゥム」から考える………久保田 浩
第9章 児童文学の中の魔女像の変容とジェンダー………大澤千恵子
第10章 創造論,新無神論,フィクション宗教──非制度的宗教の新展開………谷内 悠

三 グローバル化とダイバーシティ
 【争点4】 グローバル化は宗教の多様化か,一元化か?………藤原聖子
第11章 プロテスタントの爆発的拡大から半世紀──ラテンアメリカにおける宗教地図の変容………大久保教宏
第12章 アメリカの「伝統」の新たな挑戦──多様な宗教・非宗教の共存………佐藤清子
第13章 「超スマート社会」の宗教──電脳化は何をヴァージョンアップするのか………藤原聖子

 

関連情報

書評:
塚谷裕一 (植物学者・東京大教授)評 (読売新聞朝刊 2018年12月16日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20181218-OYT8T50045/

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