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白い表紙、青い宗教画

書籍名

宗教の自由と不寛容のアメリカ史 19世紀の反カトリックとプロテスタント

著者名

佐藤 清子

判型など

356ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2024年3月27日

ISBN コード

978-4-13-016049-0

出版社

東京大学出版会

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宗教の自由と不寛容のアメリカ史

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「アメリカ合衆国 (以下、アメリカ) は、宗教の自由の国である。」

「アメリカはキリスト教国である。」

宗教という切り口からみたアメリカの歴史と現在は、この二つの理解の緊張関係のもとに展開してきた。一方では、憲法が建国から間もない1791年以来宗教の自由を定め、宗教の自由はアメリカの第一の自由として尊ばれてきた。他方では、アメリカの宗教的多数派は英領植民地期以来ずっとキリスト教徒で、中でもプロテスタントが数の上でも力の上でも優勢であり続けた。19世紀まではプロテスタンティズムが「事実上の国教」だったともいわれるほどだった。そうしたなかでのカトリック移民の急増は、宗教改革以来プロテスタントの間に潜在した反カトリックを再燃させた。

19世紀には圧倒的多数派だったプロテスタントの反カトリックは、宗教の自由の国のはずのアメリカに数多みられた不寛容の一例である。彼らが宗教の自由をどのように捉えていたのかを明らかにし、アメリカの宗教の自由とは何かという問いに、歴史的事例の研究を通じて一つの解を与える。それが本書の出発点となった問題意識だった。
 
実はこの問いにまつわる研究は既に蓄積がある。移民の多くがヨーロッパ出身のカトリックだった当時、プロテスタントのあいだからは、移民排斥を求める政治運動・ネイティヴィズムがうまれた。「カトリックは自由を破壊する宗教であり、アメリカの自由を守らねばならない」との言辞が運動を支えたことは、多くの研究が夙に指摘してきた。
 
だが研究をすすめるうえで新たに見えてきたのは、ネイティヴストたちと反カトリックを共有しつつも、カトリックをプロテスタントに改宗させることで「問題」に対応しようとしたアメリカ人プロテスタントの存在である。しかも彼らは、宗教の自由さえあれば、プロテスタンティズムの正しさが自ずと人々の目に明らかになるはずと信じた。ここからは、ヨーロッパのカトリック国をはじめ世界に対し、アメリカ同様の宗教の自由を輸出する活動が展開した。宗教の自由とプロテスタンティズムは、互いが互いを促進し、世界的なカトリックとの対抗を助けると理解されたのである。

本書がもう一つ取り組んだのは、宗教の自由の世界的普及を訴えた人々が、奴隷制という国内の不自由をどのように考えていたのか、という問いである。詳細は本書で確かめていただきたいが、改めて浮かび上がったのは、アメリカにおける人種主義の根深さだった。

2024年春の現在、11月の大統領選挙は現職バイデンとトランプ元大統領の争いとなるとみられている。2017年から4年間大統領職にあったトランプとその支持者たちは、宗教の自由を重視するとともに、アメリカはキリスト教国との意見を支持し、人種問題には冷淡といわれる。本書が取り扱った、「宗教の自由の国」と「キリスト教国」との緊張関係、そして宗教と人種主義の交錯は、アメリカの現在にも影響をもたらし続けている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 助教 佐藤 清子 / 2024)

本の目次

序章 宗教の自由の歴史と反カトリック
 第一節 研究の背景――宗教の自由への関心の高まり
 第二節 宗教の自由の歴史研究と反カトリック研究
 第三節 本書の構成と意義
 
第一章 アメリカ的反カトリックの勃興――一八三〇年代
 第一節 サミュエル・F・B・モース――反カトリックから反移民へ
 第二節 マリア・モンクとサミュエル・B・スミス――道徳的批判と扇動者たち
 第三節 ウィリアム・C・ブラウンリー――カトリックの改宗と宗教の自由
 
第二章 福音主義、宗教の自由と反カトリック団体の発展――一八四〇年代
 第一節 アメリカプロテスタント協会
 第二節 海外福音主義協会
 第三節 キリスト教連盟
 
第三章 環大西洋世界と普遍の自由――福音主義連盟・マデイラ・一八四八年革命
 第一節 一八四六年福音主義連盟会議とアメリカ支部形成の失敗
 第二節 ポルトガル人プロテスタント移民事業
 第三節 一八四八年革命とその影響
 
第四章 反カトリック団体の合併と一八五〇年代の奴隷制問題
 第一節 AFCUの活動
 第二節 奴隷制をめぐる南北対立の深化とAFCU
 
第五章 宗教の自由を求める運動
 第一節 宗教の自由を求める運動の背景
 第二節 運動の展開
 第三節 運動における宗教の自由――普遍性をめぐる議論
 第四節 一八五三年から一八五四年以降のAFCU
 
終章 宗教の自由と白人プロテスタント国家アメリカ
 
補章 反カトリックと学校問題、教会財産問題
 第一節 ニューヨーク州学校問題と宗教の自由
 第二節 ニューヨーク州教会財産問題と宗教の自由
 第三節 政府による自由、政府からの自由
 
参考資料
あとがき

関連情報

受賞:
第4回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2023年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
関連記事:
佐藤清子「2020年のアメリカにおける宗教――コロナ・BLM・大統領選と信教の自由」 (『現代宗教』 pp. 235-253 2021年)
https://www.iisr.jp/journal/journal2021/P235-P253.pdf
 
書評:
伊達聖伸 評「2024上半期の収穫から」 (週刊読書人 2024年7月26日)
https://dokushojin.net/news/666/
 
報告:
佐藤清子「アメリカはキリスト教国家として建国されたのか――キリスト教右派の歴史認識をめぐって」 (アメリカ学会年次大会初期アメリカ分科会 2024年6月8日)

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