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ベージュの表紙、アジア風寺院のシルエット

書籍名

宗教組織の人類学 宗教はいかに世界を想像 / 創造しているか

判型など

350ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年3月31日

ISBN コード

9784831856517

出版社

法藏館

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宗教組織の人類学

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私たちの生きる世界はどのように想像 / 創造されているのでしょうか。本書ではこの問題を、アジア・アフリカ地域の様々な「宗教組織」を事例として、民族誌的に検討しています。
 
人類学者のグレーバーは、革命の前提として想像力の重要性を説いたマルクスの議論を踏まえ、私たちの生活を生きがいのある、意味あるものにするために、想像力が実用的で不可欠な役割を果たしていることを強調しています。想像上の世界は、ある種の潜在的な力として私たちの行為を意味づけ導く。それによって実際のヒト・モノ・言説の関係を変容させる。つまり世界を創造 (組織化) していく。言いかえれば、世界の想像なくして世界の創造はありえないということです。
 
本書では、このように私たちが理想の生き方や世界を想像 / 創造する上で、「宗教」————私たちが何のために、どのように生きるべきか、他者 (モノやカネも含む) とどのように関わるべきかという規範を提示する言説————が極めて重要な役割を果たしていることに注目します。文書や伝承に基づく諸規範は、どのようなものとして理解されているか。つまりあるべき生き方や世界はどのようなものとして想像されているか。それはヒト・モノ・言説をどのように結びつけ、その結果、どのような組織が創造されているか。さらにその過程で諸規範の意味はどのように探究され、それが組織をどのように再編しているか。これが本書の核となる問いです。本書の目的は、このような「宗教」と「組織」の相互構成的関係、言いかえれば「組織=組織化」のプロセスを、仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、そして本書で「西洋近代教」と呼ぶものを事例として明らかにすることにあります。
 
本書の意義は、第一に、人類学的・学際的な比較宗教研究の新たな分析枠組みを提示しうる点にあります。本書が提示する、「規範的言説としての宗教は、どのように組織を想像 / 創造しているのか」という問いは、個別宗教内部での比較だけでなく、個別宗教の枠を超えて地域や時代も異なる多様な事例を比較するための土台にもなりえます。それによって各宗教の個性を浮き彫りにできるだけでなく、人類の想像上の産物としての「宗教=規範的言説」が、人類社会をいかに創造しているかという、より一般的な問題を追求することが可能になります。
 
第二に、宗教研究の射程を拡張しうる点にあります。本書では、「宗教」を文書や伝承を根拠とする規範的言説として定義します。そこで重要なのは、従来、「宗教」とは異なる「世俗」と分類・特権化されてきた近代法的規範――人権、合理性・効率性、透明性・説明責任などのみならず、「宗教」や「宗教 / 世俗」という区別自体も含む――もまた、近代法という「聖典」を根拠とする「宗教」として捉えられるということです。このように本書では近代法的規範を「宗教」の一種 (西洋近代教) として捉えることによって、世界宗教や民間信仰を対象としてきた従来の宗教研究を拡張することを目指します。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 / 東洋文化研究所 准教授 藏本 龍介 / 2023)

本の目次

序章 宗教組織の人類学に向けて|藏本龍介
 
第一章 「善行」が想像 / 創造する組織――ミャンマーのダバワ瞑想センターを事例として|藏本龍介
第二章 「布施のゆくえ」に向き合う仏教組織――現代タイにおける布施、会計、アカウンタビリティ|岡部真由美
第三章 フィリピン・カトリック教会の政治参加と社会的影響力――ドゥテルテ政権下における司牧声明の言説分析|東賢太朗
第四章 ムスリムを組織化するということ―― 一九四〇年代から一九六〇年代までのボボ・ジュラソにおけるムスリムの対立をめぐって|中尾世治
第五章 イスラーム教育の再創造――ブルキナファソのイスラーム教育機関を事例として|清水貴夫
第六章 ヒンドゥー寺院を形作る規範を探求する――インド・ラージャスターン州のラーニー・サティー寺院を事例に|田中鉄也
第七章 巡礼地管理と〈政教〉関係――四国遍路および斎場御嶽における管理組織の形成過程と法的規範|門田岳久

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