東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に鳥獣戯画のイラスト

書籍名

別冊太陽 日本のこころ 288 鳥獣戯画 決定版 「絵の原点」にふれる

判型など

148ページ、A4変

言語

日本語

発行年月日

2021年4月

ISBN コード

9784582922882

出版社

平凡社

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鳥獣戯画 決定版

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美術史家にとって最も楽しい時間とは、好きな作品ゆっくりと見る時間、そして、その作品について他の美術史家と語り合う時間でしょう。作品を見るためにはどんな場所にも行きますし、作品を見た経験は、その場所と不可分なものとして記憶されます。私の専門からいえば、欧米の美術館やコレクターの邸宅で日本絵画を見る。中国の深い山の中の石窟で仏教美術を調査する。インドの古い博物館で仏教美術の源流を感じる、ということになります。そして、見たものを語り合うことで、自分の理解がより深まる。他の研究者が同じ作品をどのように見ているのか、自分との違いを知ることができる。
 
美術作品を見て、論じることを職業に選んだプロたちが、作品をどのように見て、見たことから何をどのように考えてゆくのか。そのような研究のあり方、その最先端をわかりやすい形で伝えられないだろうか。そのような思いから企画されたのが、作品を見ながら三人の美術史家が語り合ったことをそのまま本にするという形でした。
 
京都の郊外、栂尾の高山寺に伝わる国宝「鳥獣戯画」四巻は、日本絵画の中でも最も有名な作品の一つです。名前を聞いたことがなくても「カエルとウサギが相撲をとっている絵」、「ウサギとサルが追いかけっこをしている絵」といえば、どこかでその姿を見たことを思い出すはずです。それは教科書の中、またお茶碗や手拭いやトートバッグといったグッズの上でかもしれません。このようにその形のイメージは広く知られている作品ですが、実は、「何を描いたものなのか」「いつ描かれたものなのか」「誰が描いたものなのか」「何を目的に描かれたものなのか」、こういった作品をめぐる基本的な情報が全く分からない作品なのです。日本美術史上最大の難物と言っても良いでしょう。では、その難物にどのように取り組むのか。それは、作品に正面から向き合って、よく見ることから始まります。そして、見たことを自分の記憶の中にある様々な作品や先行する研究者の意見などと比較しながら考え、この作品の特徴がどこにあるのかに迫ってゆきます。今回は、東京国立博物館の学芸員として絵巻を研究し、「鳥獣戯画」の展覧会を企画された土屋貴裕さん、京都国立博物館の学芸員として日頃「鳥獣戯画」を管理されている井並林太郎さん、二人の気鋭の研究者とともに、「鳥獣戯画」四巻を見尽くし、語り尽くしました。同じ作品を見て、意見が一致するところ、相違するところ、相違するところから議論が深まってゆく様子。研究対象に真剣に向き合い、それぞれの知を総動員して対象を解釈する、といった人文学研究の一つのあり方を実況中継するように本を作りました。
 
美術史とはどんな学問なのか。美術史家とはどんなことを考えている人たちなのか。そして、「鳥獣戯画」とは何か。そんな疑問を持つみなさんの入り口になる本が出来上がったと思います。一度、お手にとってご覧いただけたら幸いです。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 増記 隆介 / 2021)

本の目次

絵巻の楽しさ 佐野みどり p.4
鳥獣戯画 全図 p.8
鑑賞のポイント 鳥獣戯画を見る前に 増記隆介 p.16
「鳥獣戯画」全四巻を見る 増記隆介・土屋貴裕・井並林太郎 p.30
明恵上人と仏画 伊藤久美 p.128
珠玉の絵巻を楽しむ 上野友愛 p.136

関連情報

講座:
連続講座「鳥獣戯画研究の最前線」 (東京国立博物館 2021年4月23日~4月24日)
https://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=past_dtl&cid=1&id=10587

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