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スキマ植物の写真

書籍名

カラー版 スキマの植物図鑑

著者名

塚谷 裕一

判型など

192ページ、新書判、カラー版

言語

日本語

発行年月日

2014年3月25日

ISBN コード

978-4-12-102259-2

出版社

中央公論新社

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学内図書館貸出状況(OPAC)

スキマの植物図鑑

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都市部で最も身近な緑はスキマにある。スキマとは、コンクリートの割れ目、アスファルトのひび割れ、ブロック塀の隙間や電柱の根本、こういったちょっとした場所のことだ。本書ではこうした環境に生える植物たちを「スキマの植物」と称する。
 
こうした場所に生えた大根が、かつて「ド根性大根」として一世を風靡したことがあった。この愛称にも示されているように、スキマの植物たちは、逆境にもめげず頑張る努力の象徴と捉えられることが多い。しかしそうだろうか。ふだんの通勤・通学あるいは犬の散歩の合間に目を足元に置いてみれば、スキマの植物は、ごくありふれた存在であることに気づくだろう。
 
その顔ぶれも実に多様だ。どこの空き地にも生えているような、いわゆる雑草の類はもちろんのこと、日本古来の野草や海外からの帰化植物、はては最新園芸品種までがスキマには生えている。スキマに偶然入り込めるくらいタネの小さい種類も多いが、ときには大きなタネの持ち主もちゃっかりスキマに入っている。アリの習性を利用して、スキマまでアリに運んでもらってきたらしい種類もある。
 
そう、実はスキマは植物にとっては逆境どころか、むしろ楽園なのだ。植物は光合成によって自ら栄養資源を獲得し、成長する生き物。しかるに太陽光は上から射すから、植物は隣の存在が邪魔で仕方ない。たくさんの植物が隣り合って暮らす野原では、光を受け取るための競争が熾烈を極める。茎を伸ばしてなんとか他個体よりも上に行こうとし、葉の柄をねじっては、他の植物の影から出ようとする。原っぱの植物は背が高く、すくすく育っているかのように見えるが、これは無理をして背伸びした結果なのである。それにひきかえスキマは狭い。狭いために光を遮る隣の個体はいない。地下においても土の肥料分を巡る争いがない。他個体と競争をしないで済むのだ。これがいかにストレスフリーかは、想像に難くない。加えてスキマの周りはコンクリートやアスファルトなどで固められているから、乾燥も少ない。また雨が降れば、雨水はすべてスキマめがけて流れてくる。環境独り占めなのだから、植物にとってこんなに楽なことはない。スキマに数多くの種類の植物が見られるのは、こうした理由からなのだ。
 
本書ではこうした背景を解説しつつ、日本の平地都市部のスキマで頻繁に見られる植物およそ百種を、カラー写真で紹介する。日本は図鑑大国であるが、街なか環境でよく目にするという特性でまとめた植物図鑑は、まだなかった。多くは野生植物、帰化植物、園芸植物とジャンルごとにまとめられているからである。「散歩でよく見かける花の名前を、やっと知ることができた」という感想が多く寄せられたのも、そうした既存ジャンルを超えて編まれた本書ゆえこそだ。身近な植物の生が、我々人間とどれだけ違うかを認識する一助にもなれば幸いである。

 

(紹介文執筆者: 理学系研究科・理学部 教授 塚谷 裕一 / 2021)

本の目次

春(タネツケバナ;キュウリグサ ほか)
初夏(ヒメジョオン;ツタバウンラン ほか)
夏(アメリカヤマゴボウ;カタバミ ほか)
秋(ヒガンバナ;ススキ ほか)
冬(ナンテン;ツルソバ ほか)

関連情報

関連記事:
塚谷裕一「街のスキマに植物を、そして生態系を探してみよう」 (Wild Mind Go! Go! 2018年6月14日)
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/163
 
著者インタビュー:
教授対談シリーズ:こだわりアカデミー「環境に応じて形を変える植物。その秘められた能力は計り知れません」 (at home 2014年8月)
https://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000001099_all.html
 
ラジオ出演:
NEC presents ザ・フリントストーン「スキマ植物の世界」 (BAY FM 2015年8月8日)
https://www.bayfm.co.jp/flint/f20150808.html
 
書評:
地にはスキマ植物 (遊刊エディスト 2020年7月10日)
https://edist.isis.ne.jp/nest/otasis_17/
 
平松洋子 評「じつは、悠々自適なのかもしれない」 (ALL REVIEWS 2017年10月4日)
https://allreviews.jp/review/1297
 
ベストセラー解読: 長薗安浩 評 (『週刊朝日』 2015年4月24日号)
https://dot.asahi.com/ent/publication/reviews/2015041600082.html
 
本の紹介127『スキマの植物図鑑』 (北里大学獣医学部動物資源科学科ホームページ 2014年8月2日)
http://www.food-kitasato.jp/news/news140806.html
 
鎌田浩毅 (京都大学大学院 人間・環境学研究科教授) 評 (PRESIDENT Online 2014年6月2日)
https://president.jp/articles/-/12647?page=1
 
ダヴィンチ2018年8月号
朝日新聞(朝刊)2015年7月1日/著者インタビュー
読売新聞(朝刊)2015年5月4日
これから出る本2015年2月下期号
読売新聞(朝刊)2014年12月21日/石田千(作家・エッセイスト)
週刊朝日2014年6月20日号/青木るえか
本の雑誌2014年6月号/ハマザキカク
文藝春秋2014年6月号
東京人2014年6月号/川本三郎
東京人2014年6月号/平松洋子(エッセイスト)
東京新聞(朝刊)2014年5月25日
週刊新潮2014年5月8・15日号/川本三郎(評論家)
しんぶん赤旗2014年5月4日
日刊ゲンダイ2014年4月24日
AERA2014年4月21日号
読売新聞(朝刊)2014年4月21日/著者インタビュー
読売新聞(朝刊)2014年4月20日/石田千(作家・エッセイスト)
朝日新聞(朝刊)2014年4月13日
毎日新聞(朝刊)2014年4月6日
ノジュール2014年4月号
挿花2014年4月号
 
刊行イベント:
パネル展『スキマの植物図鑑』 (八重洲ブックセンター 2014年3月25日~2014年4月15日)
https://www.yaesu-book.co.jp/events/fair/3477/

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