東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

腐生植物の写真

書籍名

森を食べる植物 腐生植物の知られざる世界

著者名

塚谷 裕一

判型など

134ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2016年5月12日

ISBN コード

9784000060592

出版社

岩波書店

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

森を食べる植物

その他

在庫切れ、電子書籍対応

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かつてはカビのように腐ったものを栄養にして育つと思われていた植物、「腐生植物」。古い図鑑などを見ると、根本を掘るとネズミの死体が出てくるなどと、まことしやかに書かれていることさえあった。しかし本当は、彼ら腐生植物が「食べて」いるのは、その自生地の森そのものなのだ。腐生植物の根には特殊な能力があり、カビやキノコの類の菌糸を取り込んで、消化してしまうのである。これが腐生植物の命の糧。そのカビやキノコがどこから栄養をとっているかと言えば、森の落ち葉や枯れ枝、あるいは直接、森の木々から栄養をとっている。それを横取りするわけなので、腐生植物は、カビやキノコを介して森の生産力の一部を取り込み、暮らす植物ということになる。だから、「森を食べる」植物。最近は誤解を呼ぶ呼称を避け、菌寄生植物等と言い換えることも多くなってきた。
 
かれら腐生植物は、上記のような生活方式のために緑の葉を持たない。しかし花を咲かせ、タネをつけるれっきとした種子植物である。普通の植物と違って、日にあたって光合成をする必要もないという腐生生活は、楽なものであるらしく、進化の過程で数多くの科の植物が、独立に腐生植物としての生き方を獲得してきた。腐生生活では葉を作らないで済む分、花の形は自由度が高いらしく、まるで海洋生物のような姿をしているものが少なくない。日本で最も奇妙な形の花を咲かせる植物・タヌキノショクダイ (Thismia abei) も、その典型例だ。
 
しかし腐生植物が地上にその姿を表すのは、花時のほんの短期間。あとは地中に埋もれて人目につかない。そのため、地球上で最もよく植物の戸籍が調べられている日本ですら、未だに新種が見つかるくらい、まだまだ謎に満ちた存在である。まして、面積あたりの種多様性が地球上最も高いとされるボルネオでは、1週間ほど森を歩けば必ず新種が見つかるくらい、まだまだ未知の種類が埋もれている。筆者は実際にボルネオを中心に、これまで多くの新種の腐生植物を発見・命名・記載してきた。
 
こうした腐生植物は森を食べているだけに、その存在は、森の環境の豊かさのバロメーターでもある。腐生植物が生える森はいい森だ。本書では、そうした「良い森」の見分け方についても紹介している。なお腐生植物は、その生活の特殊さから、移植などはほぼ不可能である。腐生植物を保護することは、森の環境そのものを保護するほかない。まだまだ戸籍調べすら済んでいない腐生植物の実態を理解することは、地球環境、特に森の環境の理解を更に深めることに通じる。
 
本書ではその知られざる植物・腐生植物の、魅力あふれる姿、生き方、そしてその探し方について、豊富なカラー写真とともに紹介する。本書は腐生植物に関する本邦初の単行本でもある。なお印刷版は現在品切れながら、電子版が代わりに出ている。

 

(紹介文執筆者: 理学系研究科・理学部 教授 塚谷 裕一 / 2021)

本の目次

はじめに

1 腐生植物のことはじめ
ギンリョウソウ/花の下には死体が埋まっている?/日本の腐生ラン/奇花・タヌキノショクダイ
コラム1 失われた葉緑体への分化

2 腐生植物のくらし
カビやキノコを食べるくらし/間接的には森を食べている?/特殊な根/選り好みの生活/腐生植物の嗜好/相手を換える
コラム2 奄美大島のサクライソウ
腐生植物を育てる/緑の葉を持たない自由さ/訪花昆虫も変化する
コラム3 岡崎市のエンシュウムヨウラン

3 腐生植物は新種の宝庫
パプア・ワイゲオ島のホンゴウソウ属――新種発見か/ボルネオ・ムラーのタヌキノショクダイと腐生ラン――秘境中の秘境/ブトゥン・クリフンのタヌキノショクダイ,新属の腐生ラン/サバ・マリアウ盆地のタヌキノショクダイ――めぐり合わせとどんでん返し/ランビルのホンゴウソウ――まだまだ調査の足りないボルネオの森
コラム4 屋久島のヤクノヒナホシ

4 腐生植物の探しかた
ポイント1 よい森に行く/ポイント2 きれいな林床/ポイント3 目線は前方斜め下/ポイント4 尾根から谷筋まで/ポイント5 あとは実践あるのみ

腐生植物小図鑑
本書に写真で紹介した腐生植物の分類表
引用文献
あとがき
 

関連情報

特集記事:
サイエンスへの招待「森を食べる植物 不思議で美しい腐生植物の世界」 (『淡青』36号 2018年7月30日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/t_z0508_00001.html
 
ラジオ出演:
いのちの森 – Voice of Forest「森を食べる植物1」 (TOKYO FM 2016年8月21日)
https://www.tfm.co.jp/forest/index.php?itemid=113233
 
NEC presents ザ・フリントストーン「森を食べる“腐生植物”」 (BAY FM 2016年6月25日)
https://www.bayfm.co.jp/flint/f20160625.html
 
書評:
毎日新聞 (朝刊) 2016年7月3日
日本農業新聞 2016年6月18日
NHK「視点・論点」 2016年6月16日放送
読売新聞 (朝刊) 2016年6月12日

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