東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

古い西洋風建物を背に木漏れ日が降り注ぐ紅葉した木と木の葉

書籍名

教養のための植物学

著者名

福田 健二 (監修)、 久保山 京子 (著)

判型など

176ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年6月1日

ISBN コード

978-4-254-17180-8

出版社

朝倉書店

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教養のための植物学

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本書は、生物学や農学を専攻しない理工系・文系学生や一般市民向けに、生物の起源や植物の陸上進出から、植物の分類、形態、生態、生理までを概観し、植物と文化との関係についてもあわせて解説したオールカラーの教科書です。
 
近年、地球環境変動が顕在化し、人類文明の存続のためには気候の安定化に果たす森林の役割が極めて重要であることがわかってきました。また、人間の暮らしに欠かせないさまざまな「生態系サービス」を生み出している生物多様性の重要性も認識されています。21世紀は、化石エネルギーや限りある鉱物資源によって発展してきた近代文明を、自然エネルギーや木材をはじめとする持続可能な生物資源に依拠した文明への変革の時代となります。また、食料の安定供給は日々の生活の基盤ですが、化学肥料や化学農薬、地下水などを大量に消費する近代農業から、植物のもつ環境適応能力や他の生物との共生関係を上手に利用した持続可能な農業への変革も求められています。
 
こうした中で、社会を構成するすべての人が、植物や生態系についての基礎的な知識をもつことが持続可能な社会の建設のために必要となっています。しかし、最近の植物学の教科書は、分子生物学の発展に伴うDNAの塩基配列にもとづく生物の系統分類やゲノム解析、シロイヌナズナなどのモデル植物を用いた遺伝子発現解析などの先端的な研究成果を中心にしたものが多く、高校で生物学を履修していない読者には敷居の高い内容になっていることは否めません。野外で植物を観察するのに役立つ一般向けの植物観察ガイドや図鑑類などはたくさん出版されていますが、一部の植物好きの人の趣味ではなく、植物形態学や生態学を基礎として、植物と文化との関係まで俯瞰した「教養」としての植物学の教科書が必要だと考えました。
 
著者の久保山京子博士は、多くの大学で一般教養科目としての植物学や生物学の非常勤講師を務めてきた方で、文系の学生にも興味が持てるように身近な植物の写真を多用した具体的な植物の生活戦略に関する講義は、どの大学でも好評を博しています。本書では、その講義内容に沿って、植物を理解するための基本である植物形態学や生態学、生理学の基礎をわかりやすく解説するとともに、オオバコやヤツデなどの身近な植物を教材として、植物の繁殖戦略にかかわる形態的特徴 (花や果実の形態や受粉・種子散布など) を、多数のクローズアップ写真を用いて詳細に紹介しています。さらに、植物と日々の暮らしや文化とのかかわりについても、食料や建築材などはもとより、香辛料、医薬品、染料などの原料としての植物、絵画や詩歌の中の植物などの多くの例を挙げて解説しました。
 
本書を読み、身の回りにある植物の生活史や適応戦略について知るとともに、私たちの生活がいかに植物と深くかかわっているかを知ることで、植物と共生する21世紀の文明を作り上げていくための一助となることを願っています。
 

(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 教授 福田 健二 / 2022)

本の目次

第1章 植物の起源
第2章 生物の分類と系統
第3章 陸上植物
第4章 種子植物の花から種子へ
第5章 植物における繁殖の様式
第6章 身近な植物の繁殖戦略
第7章 植物とさまざまな生物との関わり
第8章 植物と環境
第9章 植物と人の暮らし

関連情報

書籍紹介:
[好書好日]「『白粉の花落ち横に縦にかな』 ~俳句にも詠まれたオシロイバナの生存戦略」 (じんぶん堂 2022年7月22日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14656670

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