
書籍名
教養のための植物学図鑑
判型など
212ページ、B5判
言語
日本語
発行年月日
2024年8月1日
ISBN コード
978-4-254-17191-4
出版社
朝倉書店
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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本書は、昨年このコーナーでご紹介した「教養のための植物学」 (植物を専門としない学生や一般市民向けの植物学の教科書) の姉妹編です。おかげさまで、前著は好評のうちに版を重ねており、このたび続編として本書を出版することができました。なお、本書のタイトルにある「植物学図鑑」というちょっと変わった名前には、前著「教養のための植物学」の姉妹編としての図鑑という意味と、植物学の入門書となるような新しいタイプの図鑑という2つの意味を込めました。
ふつうの「植物図鑑」は、植物の名前を知る (同定する) ために用いられるもので、多くの植物を網羅的に掲載して、それらの写真や絵と、生態、形態、近縁種との違いなどを解説するというのが一般的です。こうした図鑑は植物学を学んだことのない人が使いこなすのは案外難しいものです。まず、植物の形態の観察のしかたや、植物の器官の名前、その形態を表す形容詞などの学術用語が特殊であることに加え、多くの植物図鑑では植物を分類学的な科の順序で並べてあるため、目当ての植物がどこに載っているかがすぐにわからず、候補となる種を1つ1つ索引で調べなければならないということも多いでしょう。
本書の特徴は、前半に第一部として、植物の分類体系、植物の生態・形態の特徴とそれを表す用語の説明、実際の観察の要点などを、豊富な写真を用いて解説していることです。前著では、紙幅の都合で紹介できなかった樹木と草の違い、トゲ、巻きひげ、イモなど多様に変形した葉や茎、根の見方、樹木の枝ぶりや冬芽の見方、花の形態、果実や種子の形態と種子散布方法との対応などを、実際の写真をもとに解説しています。さらに、身近な植物を多く含む代表的な科を取り上げて、それらの花や実の特徴を写真で示しました。科がイメージできるようになると、本格的な植物図鑑が使いこなせるようになります。
後半の第二部は、都会でふつうにみられる植物85種について、観察できる場所ごとに、道路沿いの植物、公園や庭の植物、森の植物、空き地・荒地の植物、池や川辺の植物に分け、それぞれ高木、低木・つる、草本の順で紹介しています。それぞれの種について、名前 (学名、和名) の由来、基本解説、花から実への変化の様子、人との関係などについて四季折々の写真を添えて解説しています。「図鑑」を名乗るわりには掲載されている種類は85種しかありませんが、掲載されている種は私たちの暮らしの身近に普通にみられるものばかりですので、実際の植物と本書を照らし合わせながら観察することができるでしょう。
近年、炭素を固定し気候を安定化させる森林や植物の役割が注目されています。また、人間の暮らしに欠かせないさまざまな「生態系サービス」を生み出す生物多様性の大切さが認識されるようになってきました。植物について知り、身近にある植物とそれをとりまく昆虫や野鳥との相互作用、人の暮らしとの関わりなどをあらためて見つめ直すことは、これからの社会を持続可能なものとするために不可欠です。ぜひ本書を手に取って、多数の美しい写真を眺めながら、教養としての植物学を身に着けていただければと願っています。
(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 教授 福田 健二 / 2025)
本の目次
1.植物の分類体系
(1)生物の分類と分類階級
(2)学名と和名
(3)分類体系
2.植物の生態と生活形
(1)生育環境による分類
(2)休眠型による分類
(3)「樹木」と「草」のちがい
(4)木本植物の分類
(5)草本植物の分類
3.葉と茎
(1)葉のつき方(葉序)
(2)葉のつくり
(3)葉身の形
(4)単葉と複葉
(5)葉脈
(6)毛(トライコーム)
(7)葉の付属物
(8)葉の質感
(9)変わった形の葉
(10)特殊化した葉やシュート
4.シュートと樹幹
(1)生育形とシュートの形
(2)シュートの伸び方,枝の分かれ方
(3)枝と冬芽の観察
(4)幹のつくり
(5)幹の形状変化
5.花と果実の観察
(1)多様な花序
(2)花のつくり
(3)果実
(4)種子散布
(5)被子植物の系統関係から見た花や果実の特徴
第2部 観察する
1.道路沿いの植物
[高木]
イチョウ
ユリノキ
スズカケノキ
モミジバスズカケノキ
ケヤキ
ソメイヨシノ
ベニバナトチノキ
ハナミズキ
ヤマボウシ
[低木]
オオムラサキツツジ
[草本]
コニシキソウ
タチアオイ
2.公園や庭の植物
[高木]
ヒマラヤスギ
アカマツ
クロマツ
タイサンボク
マテバシイ
ウメ
ビワ
サルスベリ
ザクロ
ツバキ
トチノキ
イロハモミジ
[低木・つる]
コノテガシワ
ジンチョウゲ
ガクアジサイ
ヤマブキ
シロヤマブキ
マユミ
ドウダンツツジ
アセビ
キンモクセイ
クチナシ
フジ
[草本]
マツバボタン
ヒオウギ
ジャノヒゲ
3.森の植物
[高木]
コブシ
クヌギ
コナラ
シラカシ
エゴノキ
[低木・つる]
アオキ
ハナイカダ
ツタ
キヅタ
ノブドウ
[草本]
ヤブラン
4.空き地,荒地の植物
[高木]
クサギ
[低木・つる]
ドクダミ
ススキ
チガヤ
ツユクサ
ムラサキツユクサ
カラスウリ
ナガミヒナゲシ
ヒナゲシ(ポピー)
キツネノボタン
ヨウシュヤマゴボウ
カタバミ
ヤブガラシ
シロツメクサ
カラスノエンドウ
クズ
ヘビイチゴ
オランダイチゴ
ユウゲショウ
ナズナ
コバノタツナミソウ
ヒヨドリジョウゴ
キキョウソウ
セイタカアワダチソウ
コセンダングサ
キュウリグサ
ワスレナグサ
5.池や川辺の植物
[草本]
スイレン類
ヨシ(アシ)
ヒメガマ
ジュズダマ
ミズカンナ
キショウブ
ハス
コラム:葉序とフィボナッチ数列
コラム:国指定天然記念物 本州一位の巨樹大楠
コラム:芸術作品に登場するタチアオイ
事項索引
植物索引
関連情報
https://bsj.or.jp/jpn/general/news/
書評:
鈴木牧 (東京大学大学院新領域創成科学研究科) 評 (一般社団法人日本生態学会ニュースレターNo.65, p.21 2025年1月)
https://www.esj.ne.jp/esj/newsletter/No65.pdf
石田清 (弘前大学農学生命科学部) 評 (『日本森林学会誌』106巻12号p.353 2024年12月28日)
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.353
本の紹介 (日本森林技術協会『森林技術』No.992 2024年12月号)
https://www.jafta.or.jp/contents/shinringijuts/26_month12_detail.html
種子田春彦 (東京大学大学院理学系研究科附属植物園) 評 (日本植物学会ホームページ 2024年11月22日)
https://bsj.or.jp/jpn/general/news/post-364.php
書評 (樹木医学会『樹木医学研究』28巻4号p.226 2024年10月)
https://www.thrs.jp/journal/journal_index.html
教養図書案内 8月の書籍情報 (『京都新聞』 2024年8月)
https://pr.kyoto-np.jp/guide/educationalbooks/bk2408.html
朝倉史明「新刊紹介」 (生物教育学会『生物教育』66巻 第1号 p.42 2024年1月)
https://sbsej.jp/publish/journal