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書籍名

ネオリベラリズム都市と社会格差 インクルーシブな都市への転換をめざして

判型など

312ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年3月30日

ISBN コード

978-4-7989-1694-1

出版社

東信堂

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学内図書館貸出状況(OPAC)

ネオリベラリズム都市と社会格差

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本書は、グローバルに進展する社会格差の問題について、日本ではじめて都市政策・国土政策の観点から体系的に論じた書物である。近年、世界中で社会格差が大きな問題となっている。社会格差問題を空間的観点からみると、大都市と地方間の地域格差問題、とりわけ巨大都市圏への集中問題という国土スケールでの問題と、巨大都市圏内部での都市内格差問題という都市スケールでの問題から構成される異なるスケールでの社会格差問題が同時に起きていることが指摘できる。このような背景のもとで、近年、各国・都市が共通してネオリベラリズム都市政策のもとで社会的格差の拡大と都市内の空間的格差、国土スケール地域格差の深刻化を経験しており、このような空間分断に対抗するための新たな国土・都市・住宅政策論の構築が必須の課題となっている。一般に、ネオリベラリズム政策とは、それまでのケインジアン的福祉国家政策に代わって、規制緩和のもとでのマーケット重視の経済政策、社会住宅を含む福祉セクターへの政府支出の削減、減税と地方分権のもとでの国の所得再分配機能の削減等を基調とする政策として理解することができる。従来、開発主義体制として規定されてきた日本においても、特に、2000年代以降、ネオリベラリズム政策が主流化したことが指摘されている。日本では、かつての地域政策が地方交付税交付金や補助金、公共投資、工場棟の大都市への立地規制等を通じて、政府による所得再分配政策のもとで大都市の過密抑制、地域格差の平準化を目指した。これに対し、1980年代の中曽根政権の民活政策にはじまり、とりわけ2000年代の小泉政権において広範に展開されたネオリベラリズム的な地域政策のもとでは、政府の所得再配分機能が弱められると同時に、いわゆる「選択と集中」の掛け声のもとで、特区制度等、市場条件のよい地域での選択的規制緩和と競争的補助金の選択的投入が強められる結果、市場条件のもっともよい大都市への一極集中と全般的な地方の衰退に加えて、大都市内部での空間格差が拡大すると同時に、地方圏内においても発展する地方と衰退する地方への二極分化が進行することになった。
 
拡大する社会格差の問題に対して都市政策、国土政策はどのように応え、社会的に公正な都市と国土へと転換していくことができるだろうか。その鍵はインクルーシブな都市をつくることにある。インクルーシブな都市とは、社会的公正の観点から社会的格差とそこから生まれる空間的格差を解消するとともに、多様な人々を受け入れる寛容性をもった都市のことである。この基本的問題意識のもとで、本書は、ますます深刻化する国土と都市の空間的格差の実態とそのような格差を生み出す要因を解明するとともに、インクルーシブな都市へと転換していくための道筋を示す。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 城所 哲夫 / 2022)

本の目次

はじめに(城所哲夫)
 
第I部 理論篇
第1章 ネオリベラリズム都市の誕生(城所哲夫・福田 崚)
第2章 現代の国土政策とネオリベラリズム(瀬田史彦)
第3章 日本における社会格差と住宅政策の歴史的展開(大月敏雄)
第4章 社会的排除と包摂型地域再生(全 泓奎)
 
第II部 事例篇
第5章 ネオリベラリズム的地域政策からインクルーシブな地域政策へ(菅 正史)
第6章 大都市インナーシティの再生:大阪市西成区に着目して(蕭 閎偉・城所哲夫)
第7章 移民大国になりつつある日本の多文化共生への道筋(藤井さやか)
第8章 東京圏郊外住宅地の再生(後藤 純)
 
第III部 海外事例篇
第9章 欧州における都市の社会的・空間的不均衡と都市政策(片山健介)
第10章 米国のブラウンフィールド再生は何を目指すのか(黒瀬武史)
第11章 韓国:開発主義に基づいたネオリベラリズム空間政策と社会格差(林 和眞)
第12章 タイ:国土構造と地域格差の固定化(瀬田史彦)
 

関連情報

シンポジウム:
出版記念シンポジウム (東京大学 国際都市計画 地域計画 城所・瀬田研究室 2021年3月15日、25日)
第一回 日本と世界の社会格差問題
第二回 社会格差の実態と対策
http://www.urban.t.u-tokyo.ac.jp/s_1.html

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