東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

森林の中を走る蒸気機関車の写真

書籍名

林業遺産 保全と活用にむけて

著者名

柴崎 茂光、 八巻 一成 (編)

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年2月17日

ISBN コード

978-4-13-076031-7

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

林業遺産

英語版ページ指定

英語ページを見る

世界遺産、日本遺産、近代化産業遺産などの「遺産」を冠した用語を、日常的に耳にすることは多く、〇〇遺産に対する日本国内の関心はいぜんとして高い。林業遺産という用語も誕生し、日本森林学会による「林業遺産」の選定事業も2013年度から行われてきている。本書では、日本森林学会による選定の有無にかかわらず、様々な林業遺産をとりあげ、その保存の現状や、保全・活用の可能性を考察している。
 
ひとことで林業遺産といっても、実際には様々な有形物・無形物が含まれる。鋸や斧などの「林業道具」や、古文書といった「資料群」にとどまらず、林業集落跡といった「林業跡地」や「建造物」も該当する。「林業技術」や「林業関連の信仰・習俗」、「林業景観」などもある。本書では、こうした多様な林業遺産の保全・消失の事例を紹介しており、特徴の一つとして挙げられる。
 
現在、木材を運ぶ手段としてトラックなどの車両が使われることが一般的だが、半世紀ほどさかのぼると、山中に線路を敷設して、トロッコに積んだ木材を貯木場まで運ぶことが各地で行われていた。木材を運ぶために山中に建設されたいわゆる森林鉄道・軌道である。特に、近年、この森林鉄道 (遺構群) を活用した地域づくりに関心が寄せられるようになっている。本書では、十勝三股 (北海道)、丸瀬布 (北海道)、赤沢 (長野)、屋久島 (鹿児島)、などの事例を紹介している。大半の森林鉄道遺構が、年々劣化・消失が進む中で、一部の森林鉄道遺構は教育・観光資源としての再利用が進んでいる。その差は何なんのか、本書を読み進めるとそれが明らかになる。
 
また、ウルシ生産技術や林内での薬草栽培の技術、林業景観など、能動的な人々の営みが前提にあって、継承されてきた林業遺産もある。かつては、樹皮、樹液、薬草などの様々な林野利用が広く行われてきたが、工業化が進む中で、こうした多様な林野利用の大半は、消失の運命を辿ってきた。新たな科学技術を駆使して、持続可能な社会を構築しようとする試みを全否定するつもりはない。しかし、在来技術に代表される林業遺産には、真に持続可能な社会の達成に向けたヒントが多く隠されているように、私には思えてならない。
 
本書を通じて、自分の知らなかった宝 (林業遺産) が身の回りにあることに気付き、読者自身のできる範囲で、そうした地域の宝の保全に関心をもってもらえたらと願っている。
 

(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 准教授 柴崎 茂光 / 2023)

本の目次

序章 林業遺産とは何か|柴崎茂光
 
第1章 林業遺産の分類と価値|平野悠一郎
第2章 林業史からみた林業遺産|脇野 博
第3章 林業遺産の分布状況|柴崎茂光・深町加津枝・奥山洋一郎・八巻一成・奥 敬一
第4章 林業遺産における森林博物館の意義|奥山洋一郎
第5章 北海道の林業遺産の特長と活用|八巻一成
第6章 屋久島の林業遺産と文化・歴史的価値の変遷|柴崎茂光
第7章 森林鉄道の現況と保存の諸形態|武田 泉
第8章 森林鉄道を活用した地域振興|奥山洋一郎
第9章 越前オウレン栽培技術の文化的価値|奥 敬一
第10章 北山林業の景観変遷と新たな価値|深町加津枝
第11章 ウルシ生産と漆搔き技術の継承|林 雅秀
第12章 史料資産「林政文庫」の保全と利用|竹本太郎
 
終章 持続的な林業遺産の保全と活用を目指して|柴崎茂光・八巻一成

関連情報

書評:
木山加奈子 評 (『林業経済』第75巻第5号 pp. 26-30 2022年8月)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/rinrin/75/5/_contents/-char/ja
 
泉桂子 評 (『森林技術』961号 p. 36 2022年5月)
https://www.jafta.or.jp/contents/shinringijuts/24_month5_detail.html
 
書籍紹介:
平野悠一郎 (『杣径』64号 2022年3月)
 
『森林レクリエーション』 2022年3月号
http://www.shinrinreku.jp/journal/

このページを読んだ人は、こんなページも見ています