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青と黄色の表紙

書籍名

経済学叢書 Introductory 国際経済学入門

著者名

古沢 泰治

判型など

304ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2022年5月25日

ISBN コード

978-4-88384-348-0

出版社

サイエンス社

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国際経済学入門

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「教科書にして教科書にあらず」
 
その名が示す通り、本書はれっきとした教科書です。理論を中心に、初学者が知ってほしいことは網羅してあります。わかりやすい説明を心がけると同時に、理論としての厳密性を担保するため、全体的に数学的な論理展開をしています。国際経済学を初めて勉強する大学3年、4年生はもちろんのころ、大学院に進み国際経済学を研究しようという人にも最適の教科書です。
 
しかし、私にとっては教科書を「超える」ものでもあります。研究書と言ってもよいくらいです。私自身が大学院で本格的に国際経済学を学び始めてから35年が経ちますが、その間の学びと研究の集大成が本書だからです。これまで、経済ニュース、特に国際経済に関するニュースに触れるたび、それを理論的な枠組みの中で捉え、理解し、必要な政策などについて (一人で) 考えてきました。知らず知らずに行ってきたそうした思考実験の結果、国際経済を理解するために必要なコアな理論とその応用のコツが見えてきたのです。本書は、その「コアな理論と応用のコツ」をみなさんとシェアするために生まれた「教科書」なのです。
 
本書は4部構成になっています。第1部では、これだけは知っておいてほしいと思う国際貿易理論の基本中の基本を紹介します。そこで国際貿易の構造と利益について学んだのち、第2部では、関税や非関税障壁に代表される貿易政策について考えます。第3部は、研究テーマとしても新しい、企業活動と国際貿易について考察します。近年、アメリカのハイテク企業を中心とする一部の大企業の行動が、世界経済に大きな影響を与えるようになりました。ここでは、貿易政策が企業行動の変化を通した経済への影響を分析します。そして第4部では、経済モデルに貨幣を導入し、国際貿易と金融・マクロ経済学の相互連関について学びます。この分野は、さらなる研究が待たれる分野であり、この2章の執筆は、まるでそのテーマの研究をしているかのような感覚でした。
 
経済学は、人々の消費行動や企業行動を分析するミクロ経済学から始まり、それら経済主体の集合体としての一国経済の振る舞いを考えるマクロ経済学へと進んでいきます。国際経済学は、そうした国々が経済的に結びつき、競争し、相互に影響を与え合う様子を分析する学問です。経済学の他の分野に関わる人には怒られそうですが、「全ての経済活動を包括する分野」を研究するとてもエキサイティングな分野です。「貿易赤字はよくない」、「円安は日本経済にとってよいことだ」、「貿易によってジョブが失われる」など、多くの誤解が生まれている分野でもあります。今日のグローバル社会で起きている経済の諸現象を正しく理解するためには、グローバル経済の基本構造を正しく理解する必要があります。本書は、強力にそのお手伝いをいたします。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 古沢 泰治 / 2022)

本の目次

序章 国と国との経済的つながり
 
第1部 国際貿易理論のエッセンス
第1章 これだけは知っておきたい国際貿易の仕組みと利益
  1.1 財・サービスを交換する利益:対比として見た個人間取引
  1.2 国際間の財・サービスの交換:国際貿易の光と影
 
第2章 生産技術の国際間での差異と貿易パターン
  2.1 生産技術の国際間での差異
  2.2 リカード・モデル
  2.3 機会費用と比較優位
  2.4 生産可能性集合と生産可能性フロンティア
  2.5 各国の生産点
  2.6 二国間貿易
  2.7 特化の利益
 
第3章 自由貿易均衡と貿易利益
  3.1 消費サイドから見た貿易利益
  3.2 閉鎖経済均衡
  3.3 国際貿易における大国と小国
  3.4 貿易均衡と貿易利益:小国のケース
  3.5 貿易均衡と貿易利益:大国のケース
  3.6 国の経済規模と交易条件
 
第4章 生産要素賦存の国際的差異と貿易パターン
  4.1 生産要素賦存の国際的差異
  4.2 ヘクシャー・オリーン・モデル
  4.3 要素賦存と財生産:リプチンスキー定理
  4.4 要素賦存と比較優位:ヘクシャー・オリーン定理
  4.5 自由貿易が各国経済に与える影響
  4.6 要素価格均等化定理
  4.7 貿易と生産要素移動の代替性
  4.8 財価格と要素価格:ストルパー・サミュエルソン定理
 
第5章 国際貿易の短期的影響と長期的影響
  5.1 短期と長期
  5.2 特殊要素モデル
  5.3 財価格上昇の賃金率への影響
  5.4 産業保護政策の所得分配への効果
  5.5 国際貿易の所得分配への効果
 
第2部 貿易政策
第6章 輸入関税と非関税障壁
  6.1 輸入障壁の経済分析
  6.2 部分均衡分析
  6.3 閉鎖経済均衡
  6.4 自由貿易均衡
  6.5 輸入関税の効果
  6.6 最適関税理論
  6.7 非関税障壁
 
第7章 外部経済と貿易政策
  7.1 外部経済
  7.2 生産(消費)外部性と社会的供給(需要)曲線
  7.3 正の生産外部性と政策効果
  7.4 負の消費外部性と政策効果
 
第8章 GATT/WTOの下での貿易自由化と特恵関税協定
  8.1 GATT/WTO体制下での協調的関税削減
  8.2 協調的関税設定:関税ゲーム
  8.3 特恵関税協定
 
第3部 不完全競争と産業内貿易
第9章 国際寡占市場と貿易政策
  9.1 産業内貿易と相互ダンピング
  9.2 相互ダンピング
  9.3 戦略的貿易政策
 
第10章 多様な企業による国際貿易・海外直接投資
  10.1 多様な企業による多様な国際戦略
  10.2 メリッツ・モデル
  10.3 海外直接投資(FDI)
 
第4部 国際収支と為替レート
第11章 貿易収支はなぜ均衡しないのか
  11.1 国際収支
  11.2 経常収支:マクロ経済的視点
  11.3 経常収支:異時点間貿易の視点
 
第12章 為替レートの決定と国際貿易および国際資本移動
  12.1 各国通貨と為替レート
  12.2 為替レートの長期的水準
  12.3 為替レートの短期的水準:外国為替市場の役割
  12.4 金融取引が為替レートに与える影響
  12.5 財・サービス取引が為替レートに与える影響
  12.6 金融政策が為替レートと国際収支に与える影響
  12.7 貿易政策が為替レートと国際収支に与える影響
 

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