他人の言葉を使って書く――これ以上にありふれた手法はないだろう。フランスの作家ジョルジュ・ペレック (1936年~1982年) も例に漏れない。世界文学を踏み台にしながら自分の作品を書いた彼のテクストのなかには、程度の差はあれどよく知られた作品からの引用文が隠されている。フローベールの『感情教育』の引用に基づくデビュー作『物の時代』(1965年) から、すべての章にそれぞれ違う小説 (その割り振り方は数学的なやり方で決められる) から引かれた二つの文章を含む代表作『人生 使用法』(1978年) にいたる作品群を読めば、間テクスト的な書法がペレックのエクリチュールの核心にあることがわかるだろう。
しかし注意深く見てみると、ペレック作品における引用のあり方はけっして自明ではない。初期の小説から後期作品にいたるまで、同じ性質の引用が持ち出されるのでも、それについて同じ読み方が求められるのでもないのだ。初期にはテクストの意味を伝達する手段として使われる引用が、後期作品では、モダニズム芸術に特徴的なコラージュを形作る要素として捉えられる。コラージュとして見れば理解できるが、個々の引用文が意味を持つわけではない。
こうしてわかるのは、ペレック作品の間テクスト的な特質は、第二次世界大戦後の文学という文脈に位置づけられる必要があるということだ。引用やリライトはモダン、及びポストモダン的な美学の主要な側面のひとつである。この文脈に照らしてみれば、間テクスト性は、文学について論じる社会学者たちが「文学場」と呼ぶものの内部で価値を持つ。本書は英米圏のモダニズム文学からフランスのヌーヴォー・ロマン、テル・ケルからウリポまで、間テクスト的な性質が認められるさまざまな作品を見渡すことで、このような間テクスト的な借用を要求する、あるいは拒絶する両方の異なる戦略を理解しようと試みる。
最後に、間テクスト性に基づく作品を研究するためには、主観性の概念を考慮すべきだということを述べておきたい。そうすることで、見かけは凡庸に見えるこれらの借用の背後に、いかに書くかという行為の問題だけでなく、実存的な選択を見出すことができるだろう。ジョルジュ・ペレックの間テクスト的な実践は、彼の文学をめぐる想像的な領分から生まれ出たものである。彼の想像の中では、書物の差し出す世界は安定して信頼できるものであり、それが暴力的で痛ましく、耐えられない現実世界に取って代わるのである。ペレック作品における引用や借用は、一見したところ読者との戯れでしかないように見えるが、実のところ郵便物、日記、ノートといったペレックの私的な文章にも見つかる。したがって、こうした間テクスト的な借用を深く理解するには、ペレックがそれぞれの引用に与える意味と機能を検討することが必要不可欠だろう。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 ラウル・ドゥルマジュール / 2022)
本の目次
Sommaire
Dédicace
Épigraphe
Introduction
First part. intertextuality in Perec’s works: a constitutive practice
PREMIÈRE PARTIE
L’INTERTEXTUALITÉ DANS LE CORPUS
PERECQUIEN : UNE PRATIQUE CONSTITUTIVE
Une cartographie de l’océan
La matrice bibliothécaire de l’écriture
Un peu de rigueur
Pouvoirs et limites de l’érudition
Second part. History of quotations
DEUXIÈME PARTIE
HISTOIRE(S) DE LA CITATION
Contre l’évidence intertextuelle
Entre revendication et dissimulation d’une pratique citationnelle
Les pratiques d’un homme de lettres, une approche sociocritique de l’intertextualité
Third part. A library in the heart: personal dimension of intertextuality.
TROISIÈME PARTIE
UNE BIBLIOTHÈQUE DANS LE CŒUR,
LA DIMENSION EXISTENTIELLE
DE L’INTERTEXTUALITÉ
Imaginaires de la citation
Modalités existentielles de l’emprunt
Répétition et pulsion de mort
Conclusion
Le dernier des écrivains gutenbergiens
Bibliographie
Index des auteurs cités
Index des œuvres de Georges Perec citées
Table des matières
Conclusion. The last Gutenbergian writer.
関連情報
David Bellos 評 (『French Studies: A Quarterly Review』Oxford University Press Volume 74, Number 2 2020年4月)
https://muse.jhu.edu/article/756573?ref=rc
Manet van Montfrans (Université d'Amsterdam) 評 (『Écritures francophones du Maroc』Vol. 14 No 1 2020年)
https://doi.org/10.18352/relief.1078
Jean-Pierre Salgas 評 “50 ans sans E” (『En attendant Nadeau』 2019年9月24日)
https://www.en-attendant-nadeau.fr/2019/09/24/50-ans-disparition-perec/