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白い表紙、19世紀のパリの写真

書籍名

近代パリの社会と政治 都市の日常を探る

著者名

長井 伸仁

判型など

336ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年5月

ISBN コード

978-4-326-20062-7

出版社

勁草書房

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近代パリの社会と政治

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19世紀のフランスでは革命や民衆蜂起が頻繁に起こり、ときに体制交代につながります。その主要な舞台はパリでした。19世紀フランスを対象とする歴史研究では、このような政治史については相当な蓄積があるのですが、パリについては、首都であり群を抜く規模の都市であったにもかかわらず、その実相がよくわかっているとはいえません。パリの人口は19世紀の百年で5倍を超えるまでに膨れあがりますが、これほど急激な変化のなかで、住民はどのように暮らしていたのでしょうか。社会保障がまだ整備されていないこの時代、貧困状態に陥らないためのセーフティーネットとして何があったのでしょうか。学校教育が普及の途上で、標準語であるフランス語を知らない人びとがいまだ多くいたこの時代、言葉の違いは社会を分断していたのでしょうか。男性限定とはいえ普通選挙が導入され、経済力がなくても市民としての権利を行使できるようになったこの時代、誰が政治を担っていたのでしょうか。これらの問いは、現在を生きる私たちにもけっして無縁ではありません。本書では、19世紀パリの民衆の日常生活に注目しながら、都市の社会や政治を捉えることを試みました。
 
本書は二部構成です。第一部では、民衆層の紐帯や近隣関係について、言語や宗教がはたした役割に注目しつつ考察しました。19世紀を通じて、パリの人口増の大半は社会増すなわち域外からの転入によるものでした。また市内での転居も頻繁にみられました。そのような流動性が高い都市でも、近隣の紐帯は存在し民衆の暮らしを支えていました。地方から「上京」してきた人びとが出身地や使用言語ごとにまとまる現象もみられましたが、それはパリをモザイク状に分断するには至りませんでした。
 
第二部では、パリの住民が政治をどのように意識し実践していたのかを考察するために、パリ市議会議員に選出された人びとについて、出身地、家庭環境、職業、婚姻関係、政治的経歴、資産などを詳細に調査しました。その結果、市議会議員の大半は富裕層であり、労働者や職人など民衆層から議員になった例は一貫して少なかったことが明らかになりました。フランスは他国に先駆けて1848年に男性普通選挙を導入し、民衆層の政治参加への道を開いていました。当時、地主をはじめとした旧来の支配階層の没落が指摘され、「新たな社会階層」の台頭も叫ばれました。それらは、印象やスローガンとしてはその通りでしたが、政治の民主化は実際にはゆっくりとしか進まなかったのです。それを明らかにできたことが本書の最大の収穫でした。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 長井 伸仁 / 2023)

本の目次

序章
 
第I部: 社会と文化
 第一章: 近代フランス都市住民の日常性と共同性
 第二章: 都市における移住者と文化――地方出身者とカトリック教会
 第三章: 都市化とカトリック教会――教区のあり方からみる
 第四章: パリ民事籍簿復元事業
 
第II部: 行政と市政
 第五章: 住民と秩序維持――パリ警視庁とその活動
 第六章: プロソポグラフィと社会史――フランス近現代史研究の事例から
 第七章: 第三共和政期のパリ市議会議員
 第八章: 選挙の一断面――ブーランジスムをめぐる人びと
 第九章: フランスにおける自治体史――首都パリとその郊外の事例
 
終章

関連情報

書評:
長野壮一 評 (『クリオ』37巻 pp. 27-30 2023年5月)
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/2007497
 
書籍紹介:
あとがきたちよみ (けいそうビブリオフィル 2022年5月24日)
https://keisobiblio.com/2022/05/24/atogakitachiyomi_kindaiparis/
 
関連イベント:
「合評会 長井伸仁著『近代パリの社会と政治――都市の日常を探る』」 (東京大学法学部1号館 / オンライン [主催: 都市史学会] 2023年7月1日)
https://suth.jp/event/20230701/

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