東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白と赤の表紙

書籍名

角川新書 エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命

著者名

三浦 篤

判型など

324ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年10月19日

ISBN コード

9784047035812

出版社

KADOKAWA

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エドゥアール・マネ

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日本で19世紀フランス絵画といえば、印象派が人気を誇る状況が長く続いているが、残念なのは、印象派以上に重要な画家エドゥアール・マネがあまり知られていないということだ。この画家を抜きにして、19世紀フランス絵画の真髄に迫ることはできないので、現状を変えたいと前から思っていた。
 
実は、マネの絵の表面的な魅力は大変わかりやすく、鮮烈な色面対比や流れるような筆触に思わず目を惹きつけられる。ただし、《草上の昼食》、《オランピア》、《フォリー=ベルジェールのバー》といった代表作は、表層の魅力を越えた衝撃力と複雑な内容を備えた、西洋美術史に確かな足跡を残す。このような作品を深く理解するためには、マネの特異性、西洋絵画史における位置づけを把握することが必須となる。
 
そのために書いたのが、本書『エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』にほかならない。マネを論じながら、マネを合わせ鏡にして西洋絵画史を縦断するという大胆な企てであるが、マネが相手ならできるという確信が私の中にあった。
 
19世紀後半のパリに生きたマネは近代都市の人物や生活を、平面性を強調する新しい様式でいち早く描いた。しかし、その革新性の本質は絵画という視覚メディアの在り方を根底から変貌させた点にこそある。
 
まず、マネほど絵画の伝統を貪欲に吸収した画家も珍しい。イタリアやスペインを始めとするヨーロッパの絵画流派を広く学び、その成果を19世紀パリの同時代生活を表すために援用したのである。過去の巨匠たちの作品から構図や形態を借用、引用するさまを、第1部「過去からマネへ」において詳しく検証した。
 
続く第2部「マネと<現在>」では、マネとパリの濃密な地理的関係を押さえつつ、マネが描いた主題と、既存のイメージを転用する斬新な手法を確認し、作品をサロン (官展) という場で展示する戦略を探った。実際、多種多様な画像を自由自在にコラージュしてパリの「現代生活」に変換することは、社会への冷静なまなざしを視覚化する新しいレアリスム絵画の始まりでもあった。それゆえ、マネの変革は西洋絵画史の過激なパラダイム転換となり、従来の絵画規範を揺るがし、観客の視覚に衝撃を与えたがゆえに、スキャンダルや酷評を引き起こすことにもなったのである。
 
そして、第3部「マネから未来へ」で追跡したように、マネが興味深いのは、後世の画家たちに与えたインパクトの大きさにも依る。ドガやモネはもとより、セザンヌやゴーガン、二十世紀のピカソに至るまで、マネの絵はさまざまな刺激を波及させ、マネを意識した作品を多数生み出させた。そのポテンシャルは現代アートの世界でも失われず、写真を用いた造形作家に顕著に表れている。
 
このように、マネは西洋近代絵画史に革命を起こした最重要画家と見なすことができる。その内実を詳しく知りたい方は、本書をぜひ手にとっていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 三浦 篤 / 2019)

本の目次

はじめに−マネの特異性について
 
I. 過去からマネへ
第1章  成熟するイメージ環境
第2章  イタリア絵画−ティツィアーノとラファエロ
第3章  スペイン絵画−ベラスケスとゴヤ
第4章  フランドル・オランダ絵画とフランス絵画
 
II. マネと <現在>
第5章  近代都市に生きる画家
第6章  主題としてのパリ
第7章  画像のアッサンブラージュ
第8章  近代画家の展示戦略
 
III. マネから未来へ
第9章  印象派−ドガとモネ
第10章  セザンヌとゴーガン
第11章  20世紀美術-ピカソを中心に
第12章  マネと現代アート
 
結び
おわりに
 
注釈
マネ研究文献案内
図版一覧
 

関連情報

書評:
アート・アーカイブ探求 影山幸一 (アートプランナー・デジタルアーカイブ研究) 「エドゥアール・マネ《草上の昼食》──不滅の複層的イメージ「三浦 篤」」 (artscape 2019年4月15日号)
https://artscape.jp/study/art-achive/10153594_1982.html
 
大竹昭子 評 「複製技術がもたらす過激さ」 (日本経済新聞/ALL REVIEWS 2019年1月7日)
https://allreviews.jp/review/2820
 
張競 評 「画家を通し美術史を照射」 (毎日新聞 2018年12月23日)
https://mainichi.jp/articles/20181223/ddm/015/070/003000c
 
横尾忠則 評 「古典と現代の融合共存を試す」 (朝日新聞/好書好日 2018年12月22日)
https://book.asahi.com/article/12027089
 
河本真理 (日本女子大学教授) 評 「2018年回顧 芸術」 (週刊読書人ウェブ 2018年12月22日)
https://dokushojin.com/article.html?i=4762
 
本よみうり堂 > 記者が選ぶ (読売新聞 2018年11月14日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/column/press/20181105-OYT8T50138/
 
カドブン 「マネ、西洋絵画を変えた画家」 (「本の旅人」2018年11月号 2018年11月9日)
https://kadobun.jp/reviews/520.html

その他、地方紙 (京都新聞、秋田魁新報、沖縄タイムズなど)、共同通信、美術雑誌 (芸術新潮、美術手帖) 等々に書評・紹介記事掲載。
 

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