数理モデル思考で紐解くRULE DESIGN 組織と人の行動を科学する
本書は、「ルール」について科学的に考える一冊です。世の中には、法律はもちろん、学校の校則や、会社の就業規則、家庭内のきまりなど、様々なレベルの「ルール」が存在しています。これらのルールは、人々の生活を円滑にし、集団の目的を達成するために設定されるものですが、残念ながらうまく機能しないこともしばしばです。普段の生活で、「なぜこんな非合理的なルールに従わないといけないんだ」という不満をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
一人の人間の行動ですら、予測したりコントロールすることは至難の業ですが、それを集団に対して行うことが求められる「ルールデザイン」は極めて難しい仕事です。しかし、「ルールの作り方」について学ぶ機会があるでしょうか? そもそも、その必要性すら感じていない人も多いでしょう。人間は兎角、他人の考えることはよくわかっていて簡単にコントロールできる、と考えてしまいがちです。しかし、実際にそうでないことは身の回りで起きているルールの失敗を見れば明らかでしょう。ルールを作る際に、「人はきっとこういう風に動いてくれるだろう」という想定をするとき、それはある種の「モデル化」を行っていることに他なりません。しかし、しばしば単純化されたモデルのせいで、想定と異なる事態が発生します。ここで捨象されてしまったものが何なのか、それが構造的にどのような結果を生むのかに焦点を当てるのが本書の「数理モデル思考で紐解く」視点です。(なお、本書を読むにあたって数学の知識は一切必要ありません。)
ルールが失敗するときに何が起きているのか。本書では、国や自治体の制度設計に始まり、チームのマネジメントや子育ての失敗まで、ありとあらゆるルールの失敗事例を収集し、4つのレベルに分類して整理しました。1つ目がルールそのものに内在する問題のレベル。2つ目が、個人の心理的な要因のレベル。3つめが、人が集まったときに生じる集団メカニズムのレベル。そして最後が外部からの影響による環境要因のレベルです。この4つのレベル分けを軸に、心理学、経済学、複雑系科学といった諸分野の知見を参照しながらルールの失敗メカニズムについて考えていきます。
本書の後半では、人間社会の中でルールを生かすための方法について議論します。ルールが設定されたことによる「良い面」に焦点を当てつつ、近年の情報科学技術の発展によって新しく可能になりつつある (と同時に考えざるを得なくなってきた)、これからの新しいルールデザインについて論じました。特に、「AIのエージェントが人間の中に混ざった社会システムの中で、いったい何が起き、それをどう制御しなければならないのか」は、今後の私たちにとって重要な課題になっていくでしょう。
本書は以上のように、分野横断的に組織や人間社会を形作る「ルール」の機能的な側面に焦点を当て、より良い仕組みを作るための新しい学問としての「ルールデザイン」を提案します。
(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 特任講師 江崎 貴裕 / 2023)
本の目次
ルールデザインの失敗について考える
エビデンスの無いルール設定・介入:実は無意味なルール
機能的な欠陥:従うのが難しいルール
ルールの不遵守・不定着:守ってもらえないルール
第2章 個人とルールデザイン――人間は「粒子」ではない
インセンティブ設計の失敗:報酬が逆効果になるとき
罰則設計の失敗:罰則が無視されるとき
指標化による失敗:数字に踊らされるヒト
望ましい行動を補助する:上手な行動の促し方
第3章 集団とルールデザイン――グループから生じるメカニズム
集団と対立/協力:ルール遵守を阻む事情
群集心理的な行動:周りのことが気になるヒト
情報とグループダイナミクス:「想定外」の結末を防ぐために
第4章 社会とルールデザイン――モデル化の外の現象
環境が邪魔するルール:ルールの前提が変わる
イノベーションとルールデザイン:世の中の変化に対応できない理由
ルールの陳腐化と変え方:変わるニーズと変わらないルールの目的
第5章 人を活かすルールデザイン――制約条件としてのルール
制限のし過ぎ:ルール遵守のコストを考える
組織における制約のコントロール:マネジメントとルール
クリエイティビティと制約:『緑の卵とハム』
第6章 人工知能とルールデザイン――AIと人の混合システム
データ活用とルールデザイン:意思決定を代替するAI
AIを埋め込んだルールデザイン:AIをルールデザインに役立てるには
社会のルールとAIのルール:AIにどうやってルールを守らせるのか
第7章 成功のためのルールデザイン――フィードバックのプロセス
デザインにおけるフィードバック:ルールをうまく改善するには
なぜ、ルールに「フィードバック」ができないのか:ルールの改善を阻害する要因
数理モデルとデータの解釈:どうやってルールを評価・設計すれば良いのか
適応的ルールデザイン:事前に決めておくべきこと
関連情報
三浦麻子 評 (『社会心理学研究』第39巻第1号 p. 31 2023年07月31日)
https://doi.org/10.14966/jssp.B3901
「人事パーソンへオススメの新刊」 (WEB労政時報 2022年12月9日)
https://www.rosei.jp/readers/article/84102
関連記事:
「Point of view - 第229回 江崎貴裕――ルールデザインの視点から見る、「人を動かすルール運用のルール」とは」 (WEB労政時報 2023年05月26日)
https://www.rosei.jp/readers/article/84978
インタビュー:
「なぜ、人は想定通りに動かないのか。『RULE DESIGN』の著者、江崎さんに聞く社内ルールのあり方」 (Agend 2023年)
https://agend.jp/media/rule-design-ezaki/
「納得できないルールは意味がない。組織の心理的安全性を高めるルールデザイン」 (ourly Mag. 2023年3月1日)
https://ourly.jp/interview-ezaki/
「人は想定通りには動いてくれない…「ルールづくり」における「4つの失敗パターン」」 (現代ビジネス 2022年12月27日)
https://gendai.media/articles/-/103492
メディア出演:
[動画]「失敗しないルール作り【RULE DESIGN】」 (bizplay 2023年)
https://biz-play.com/seminar/1672
[Podcast]「88. 数理モデル思考で紐解く RULE DESIGN - 組織と人の行動を科学する w/ 江崎貴裕」 (Fukabori.fm 2023年02月14日)
https://fukabori.fm/episode/88
[動画]「【LIVE】RULE DESIGN(←神本)の魅力に迫る!【with ソシムの分析シリーズ著者~s】 #VRアカデミア」 (AIcia Solid Project|YouTube 2022年)
https://www.youtube.com/watch?v=rKKe5LMH4So