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書籍名

Loanwords and Japanese Identity Inundating or Absorbed?

著者名

Naoko Hosokawa

判型など

202ページ

言語

英語

発行年月日

2023年2月28日

ISBN コード

9781032054261

出版社

Routledge

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本書の主な目的は、現代日本社会における外来語に対する国民の意識の分析を通して、言語とアイデンティティの関係を探ることである。特に、外来語をめぐる論争の中で、言語が国民的アイデンティティの象徴として認識される過程を明らかにする。日本語はその歴史の中で、他言語から多くの単語を借用してきた。その中で、主にヨーロッパ諸言語からの借用語は「外来語」と呼ばれ、現在その大部分は英語由来である。外来語が日本語に与える影響については、様々なメディアで激しい議論が交わされている。外来語を国際化社会の象徴であると肯定的に見る人がいる一方で、言語汚染の元凶と考える人も少なくない。なぜ外来語論争はこれほど世間の注目を集めるのだろうか。本書は、このような疑問と向き合いながら、テキスト分析によって、外来語をめぐる現代日本の言説を精査する。特に、「外来語の氾濫」(外来語の使用を批判する際によく使われる) や「外来語の吸収」(外来語の使用を賞賛する際によく使われる) といった、ニュースメディアで繰り返し使われる言葉や比喩に焦点を当てている。外来語をテーマにした新聞記事から抜粋した文章を詳細に分析した結果、頻出表現には共通点があることがわかった。それは、「外来語」という言葉で表現される外国からの借用語と、「日本語」という言葉で表現される純粋な日本語との対比である。例えば、「氾濫」も「吸収」も、互いに排他的な2つの存在を必要とする。どちらの場合も、「外来語」は暗黙のうちに「日本語」と対比される。同様に外来語についての議論に頻繁に用いられる12の表現を特定し、その中で比較される2つの概念を分析した。その結果、賞賛にせよ批判にせよ、外来語の使用をめぐる議論では、外来語と日本語が常に相互に排他的な二つの概念として比較されていることが明らかになった。つまり、外来語は辞書の中では日本語の三つの語彙区分のひとつに分類されながら、日本語という概念的枠組みからは言説的に排除され、日本語の言語的アイデンティティにとって他者の役割を担っていると言える。本書は、外来語の使用をめぐる熾烈な論争は、日本人のナショナル・アイデンティティ形成の一端を担っていると結論づけた。外来語をめぐる議論の根底にあるのは、日本人のアイデンティティを確立したいという願望であり、その中で、外来語推進派も反対派も、外来語を日本社会の中で感じられる「新しいもの」、「異なるもの」として捉えていることがわかる。
 

(紹介文執筆者: グローバルリーダー育成プログラム 特任講師 細川 尚子 / 2023)

本の目次

Chapter 1: Loanwords in Japan
1.1 Western Loanwords and Japan Today
1.2 What are Gairaigo and Katakanago?
1.3 Gairaigo Controversies
1.4 Key Questions and Focal Points
 
Chapter 2: For or Against?
2.1 Language and Identity
2.2: Public Opinions
2.3: Advantages and Disadvantages
2.4: Why the Polemic?
2.5: Gairaigo and Nihongo Dichotomy
2.6: Nihongo and Kokugo
 
Chapter 3: Inundating or Absorbed?
3.1: Textual Data
3.2: Time Frame
3.3: Method of Analysis
3.4: Recurrent Verbs
3.5: Implications
 
Chapter 4: Japanese or Foreign?
4.1: Nihongo, the Japanese language, and Gairaigo, Loanwords
4.2: Analysis
4.3: Summary
 
Chapter 5: What Kind of Loanwords?
5.1: Loanwords as ‘Outside Within’
5.2: Metaphors
5.3: Contrasts
5.4: Evolution of Japanese Identities
 
Chapter 6: Loanwords and Identity in the Age of Diversity
6.1: French Discourse on Loanwords
6.2: Comparative Observations
6.3: Use of Katakana for Japanese Loanwords Abroad
6.4: From the ‘Outside Within’ to the ‘New Wild’

関連情報

関連イベント:
出版記念「外来語と日本人のアイデンティティ『氾濫』と『吸収』?」 (東京カレッジ|東京大学 2023年4月19日)
https://www.tc.u-tokyo.ac.jp/ai1ec_event/8883/

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