東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙

書籍名

日仏会館ライブラリー レトリックとテロル ジロドゥ/サルトル/ブランショ/ポーラン

著者名

澤田 直、ヴァンサン・ブランクール、 郷原 佳以、 築山 和也 (編)

判型など

304ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2024年3月

ISBN コード

978-4-8010-0801-4

出版社

水声社

出版社URL

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レトリックとテロル

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本書は、2023年10月に日仏会館で行われた国際シンポジウム「レトリックとテロル:ジロドゥ/サルトル/ブランショ」を出発点とした論集です。まずは、「レトリックとテロル」というタイトルに説明が必要でしょう。「レトリック」は「修辞学」という訳語で知られています。かつてはより広く「弁論術」という意味で用いられていましたが、ここでは、何を語るかよりもいかに語るかに傾注する学問、と考えておいてよいでしょう。隠喩や換喩といった文彩の学のことです。「テロル」の方は、テロ事件ではなく、フランス革命期の「恐怖政治」を指す語です。とはいえ、ここでは比喩的に用いられています。
 
「テロル」を比喩的に用い、19世紀以来、文学の言葉に対するフランスの批評家や作家たちの考え方は「レトリック」派と「テロル」派に二分されている、と指摘したのがジャン・ポーランという批評家です。批評家であるだけでなく、『新フランス評論』という20世紀フランスで大きな役割を果たした文芸誌の編集長としても活躍した人ですが、彼は1941年に『タルブの花――文芸における恐怖政治』を刊行し、使い古された言葉を避けて独創性の直接的発露を求める人々を「テロル」として批判し、言葉の力を信じ言葉を重視する「レトリック」を新たな形で復活させることを説いたのです。
 
ドイツによる占領下のフランスで、作家や批評家たちはこのポーランの問題提起を各々の仕方で受け止めました。本論集は、当時、名声を博していた作家・批評家で、『シュザンヌと太平洋』、『トロイ戦争は起こらない』などで知られるジャン・ジロドゥ (1882-1944) と、その一世代下の作家・批評家で、主に戦後に活躍するようになるジャン=ポール・サルトル (1905-1980) とモーリス・ブランショ (1907-2003) に焦点を当て、彼らがポーランの問題提起をどのように受け止めて文芸批評を展開したのか、また相互にどのような関係性にあったのかについて、ジロドゥ、サルトル、ブランショおよびその関連領域の11名 (シンポジウムでは12名) の研究者が考察を行ったものです。
 
第I部にジロドゥに関する論考、第II部にサルトル、ブランショ、ポーランに関する論考が収められ、彼らと、同時代の批評家クロード=エドモンド・マニーやブリス・パラン、前世紀の詩人ロートレアモンとの関わりも論じられています。これまでにない作家の組み合わせを通して、第二次世界大戦期のフランスにおいて文学言語をめぐり共有されていた問題意識に光を当てることができたのではないかと思います。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 郷原 佳以 / 2024)

本の目次

序 澤田直
 
I
八拍子のワルツ――ジロドゥ、サルトル、ブランショにおける批判的諸関係 (一九三八-一九四五) の分析
  クリストフ・ビダン
『ルクレチアのために』の今日的意義――暗闇のなかの手つかずの可能性
  間瀬幸江
言葉、プロパガンダ、映画――ジャン・ジロドゥの言語観とその映画作品の関係
  田ノ口誠悟
「限界‐体験」への誘惑――ジロドゥの演劇における女性の登場人物とアイデンティティの境界
  ヴァンサン・ブランクール
ジロドゥのレトリック――「疑いも不安もないレトリック」(C = E・マニー) か?
  アンドレ・ジョブ
 
II
サルトルの考えるテロル――シュルレアリスムからネグリチュードへ
  澤田直
ある挫折の解剖学――ポーランとブランショのあいだのサルトル (一九四五―一九五二)
  ジル・フィリップ
ジャン・ポーランとブリス・パラン――言葉の形而上学をめぐって
  渡辺惟央
常套句、あるいは、振動と揮発――ポーランからブランショへ
  郷原佳以
死と存在の空間へ向けて――モーリス・ブランショにおける二つのテロル
  市川崇
モーリス・ブランショの文学時評、ロートレアモンと小説の問題
  築山和也
感性の問題――三つの同時代小説、『選り抜きの女たち』、『嘔吐』、『謎の男トマ』をめぐる交叉的読解
  クリストフ・ビダン
 
シンポジウム「レトリックとテロル」の誕生について――「あとがき」に代えて
  ヴァンサン・ブランクール

関連情報

書籍紹介:
新刊紹介 (REPRE Vol. 52 2024年10月)
https://www.repre.org/repre/vol52/books/editing-multiple/2/
 
シンポジウム:
レトリックとテロル:ジロドゥ/サルトル/ブランショ (日本フランス語フランス文学会/日仏会館 2023年10月14日~15日)
https://www.fmfj.or.jp/events/20231014.html

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