東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黒い表紙に油絵

書籍名

人文学を社会に開くには。 パブリックヒューマニティーズから考え・行動する

著者名

菊池 信彦 (編集)

判型など

304ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2025年4月

ISBN コード

978-4-86766-086-7

出版社

文学通信

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人文学を社会に開くには。

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UTokyo BiblioPlazaの趣旨は「東京大学教員の著作を著者自らが語る」ことだが、私は26章から成る本書の一章分 (第3章「パブリックアーケオロジーと考古学の公共性」) を執筆し、また別の一章 (第6章「ディスカッション」) を構成する対談に参加したに過ぎない。そんな私が、自身の関わった部分のみを語って本書紹介とするのは無理がある。しかし、だからと言って各章について述べていくと、限られた字数では表層的な話になりそうだ。そこで、本書全体を通して感じたことを述べることにする。
 
本書の特徴は、人文学が何であり、いかなる意義をもつのかを論じるのではなく、人文学をどのように社会へ発信していくかを問う点にある (編著者の菊池信彦氏による「はじめに」を参照)。昨今、「人文学は役に立たない」という評を聞くことがあるが、そのときに我々はつい防衛的になり、人文学がいかに大切であるかを説きたくなる。しかし、あえてこのスタンスをずらし、人文学をいかに社会に開いていくかを考えるほうが、より素直で建設的だ。
 
この判断の背景にあるのは、人文学が伝統的に社会実践を軽視してきたことへの省察だろう。アカデミア内で論文や本を書きながら専門知を研ぎ澄まし、真理を探究することが人文学の真髄かもしれないが、考えてみれば、「人間とは何か」を追究する人文学が専門家だけに閉じられているのは不自然だし、もったいない。
 
パブリックヒューマニティーズは、この状況から脱するための作業概念なのだと思う。現状では、人文学はすべての人間に開かれていないがゆえに、パブリックヒューマニティーズという言葉を持ち出して、人文学の開き方を論じる場を設けるのである。その場での議論と実践を積み重ね、人文学/ヒューマニティーズが真にすべての人間に対して開かれたとき、「パブリック」の冠は自ずと取れるはずだ。しかし、それが近い将来に実現するとは思えず、だからこそパブリックヒューマニティーズの伸展に期待したい。
 
本書の第一部と第二部は、そんなパブリックヒューマニティーズを理解するためのヒントと理論がさまざまな観点から提示される。つづく第三部では、人文学を開いていく技法が数多くの実践例を通して示されるが、いずれの章も簡潔でテンポ良く読める。「みんなで翻刻」(第19章で橋本雄太氏が紹介) のようなデジタル技術を使った実践例が、とりわけおもしろい。デジタルの技術や環境は目まぐるしく変化していくため、最前線の動きを常に把握しておきたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 松田 陽 / 2025)

本の目次

はじめに[菊池信彦]
 
第1部 パブリックヒューマニティーズ/公共人文学の現在地
 
01 パブリックフォークロアを支える理念―協働、共有されたオーソリティ、対話主義―[菅 豊
02 パブリック(ス)とパブリックヒストリー[岡本充弘]
03 パブリックアーケオロジーと考古学の公共性[松田 陽
04 公共人類学と協働の民族誌[関谷雄一
05 デジタルパブリックヒューマニティーズの実践とその課題[菊池信彦]
06 ディスカッション
 
第2部 現在地を多様な立場から考える
 
07 公共社会学の挑戦―よりよい共同性を求めて―[盛山和夫]
08 公共日本語教育学の理論と実践[川上郁雄]
09 パブリックヒストリーにかかる議論[トマ・コヴァン(徳原拓哉 訳)]
 
第3部 人文学を社会で実践する
 
#発信する
10 「人文知コミュニケーション」を考える
  ―研究機関発信にみるパブリックヒューマニティーズ―[光平有希]
11 Philosophy for everyoneの理念とその実践[山野弘樹]
12 石棒クラブによるコミュニケーションの実践
  [石棒クラブ(三好清超、上原 惇、小林遼香)]
 
#描く/書く
13 漫画を通じた歴史実践[佐藤二葉]
14 神話継承・受容の研究動向から感じること[庄子大亮]
15 研究成果をもっとウィキペディアに!―学会、図書館、博物館との連携―[北村紗衣]
16 東日本大震災を起点とした博物館活動と社会実践[内山大介]
17 COVID-19に関する博物館展示を通じた人文学の発信[五月女 賢司]
 
#場を作る
18 山村で自宅を図書館として開くということ―人文系私設図書館ルチャ・リブロの実践から―[青木真兵]
19 シチズンサイエンスとアジャイルソフトウェア開発―「みんなで翻刻」の取り組みを通じて―[橋本雄太]
 
#体験する
20 VRとメタバースを人文学教育に活用する―その方法と課題―[矢野浩二朗]
21 ゲームを通じて歴史学者の思考を体験する[池尻良平]
22 街歩きを通じた人文学の発信―「まいまい京都」での実践を通じて―[福島幸宏]
 
#活かす
23 文化人類学の「応用」としての起業と実践[大川内直子]
24 AMANEの取り組み―人文系学術専門人材が活躍できる社会の実現を目指して―[堀井 洋]
 
#楽しむ
25 歴史的な奥行きを考えるおもしろさ―過去と現在との対話としての記念碑遠足のススメ―[柳原伸洋]
26 歴史フェス、はじめました―歴史を楽しみたい すべての人へ―[歴史フェス実行委員会(大谷 哲、河西秀哉、菊池信彦、福島幸宏、藤野裕子、堀井美里)]
 
あとがき[菊池信彦]
 
【執筆者】
菅 豊/岡本充弘/松田 陽/関谷雄一/川上郁雄/盛山和夫/Thomas Cauvin/徳原拓哉/光平有希/石棒クラブ/三好清超/上原 惇/小林遼香/柳原伸洋/内山大介/五月女賢司/庄子大亮/福島幸宏/池尻良平/佐藤二葉/橋本雄太/青木真兵/矢野浩二朗/北村紗衣/山野弘樹/大川内直子/堀井 洋/大谷 哲/河西秀哉/藤野裕子/堀井美里
 

関連情報

書評:
本よみうり堂:清水唯一朗 (政治学者・慶応大教授) 評「読書委員が選ぶ「2025年の3冊」<上>」 (読売新聞オンライン 2026年1月9日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20260105-GYT8T00244/
 
あの人に聞いた オススメの1冊
三好清超 (飛騨市教育委員会文化振興課 飛騨みやがわ考古民俗資料館 学芸員) 評 (『文化遺産の世界』ホームページ 2025年9月9日)
https://www.isan-no-sekai.jp/column/9993
 
川上郁雄 (早稲田大学名誉教授) 評「MY BOOK REVIEWS (18)」 (川上郁雄 | note 2025年4月8日)
https://note.com/ikuokawakami/n/n7fb3da90d2c4
 
書籍紹介:
菊池信彦編『人文学を社会に開くには。 パブリックヒューマニティーズから考え・行動する』のページをパラパラとめくってみる動画。 (文学通信 | YouTube 2025年4月2日)
https://www.youtube.com/watch?v=EA-HPGZLr2Q
 
イベント:
実践人文学の現在地:『人文学を社会に開くには:パブリックヒューマニティーズから考え・行動する』(文学通信、2025年)第3部執筆者と語る (パブリックヒストリー研究会 2025年12月7日)
https://public-history9.webnode.jp/l/new3/

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