
書籍名
イスラーム法研究入門
判型など
324ページ、A5判、並製
言語
日本語
発行年月日
2025年3月10日
ISBN コード
978-4-7923-3455-0
出版社
成文堂
出版社URL
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本書は、これからイスラーム法を研究しようとする学生や研究者、およびすでにイスラーム法を研究している読者のためにやや専門性の高いハンドブックを目指した。ただし、イスラーム法全体を網羅しているわけではなく、主としてスンナ派の実定法学の研究案内という内容になっている。以下、まずは、各章の内容に簡単に触れておく。
第1章では、イスラーム法の意義や体系に簡単に触れた後、19世紀から今日に至るまでの主として欧米における研究史が紹介される。第2章は、スンナ派に属する5つの法学派 (ハナフィー派、マーリク派、シャーフィイー派、ハンバル派、ザーヒル派) の紹介に充てられている。それぞれ、法学派の起源から説き起こして、その学説史と、代表的な法学者およびその主たる著作が紹介される。第3章では、『クルアーン』に次ぐ第2の法源とされるハディース (預言者ムハンマドの言行の記録) をめぐるイスラーム圏における通説的な理解と、それとは多かれ少なかれ異なる欧米の研究が紹介される。第4章は、文書研究と題して、総論に続いて、オスマン帝国、ロシア帝政期の中央アジア、カージャール朝期のイランのシャリーア法廷文書、そしてモロッコの公証人文書について、資料とそれに基づく研究が扱われている。いずれの章にも末尾には一次資料・二次資料の目録が付されている。
直ちに看取されるように、時代、地域、内容、宗派のいずれの点においても網羅的というにはほど遠い。近現代はほぼ対象外であり、サハラ以南、南アジア、東南アジアもほとんど扱われていない。法理学にもほとんど触れていない。シーア派は、第4章で一節が充てられているにとどまる。
これは、手頃な頁数と価格に収めるという思惑と、我が国におけるイスラーム法研究者の層という事情によるものである。しかし、扱われている範囲に限っては、「入門」と銘打っている割には、イスラーム法についてかなりの知見を有する読者にとっても有益な情報が満載である。すなわち、第2章では、各学派で研究者によってよく用いられる法学書について、それらの著者の学説史上の系譜や、それらが当該の学派の学説史において有する意義が考察されているが、従来は、国内外を通じて、この種の考察が一章でまとまった形で紹介されることはなかった。いうまでもなく、各法学派において権威ある法学書は決まっており、実定法の研究において研究者はそれらの法学書が権威を認められているという理由で選んできたが、本書により目的に合わせた選択ができるようになるはずである。また第4章の著者はいずれも、それぞれ専門とする国や地域の文書館を訪れて、文書の調査に長く携わっており、どこにどのような文書があるか、また文書の体裁や書式についても、なかなか得ることが難しい情報を提供している。本書は、「入門」を超えていわば免許皆伝まで読者の伴となれるであろう。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 名誉教授 柳橋 博之 / 2025)
本の目次
第1章 イスラーム法とその研究史 堀井聡江(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)
1.イスラーム法とは
2.研究史
3.文献目録
第2章 イスラーム法学研究
2-1.ハナフィー派 早矢仕悠太(アジア経済研究所図書館ライブラリアン)
1.ハナフィー派学祖と法的推論
2.「ハナフィー派」の形成
3.中央アジアにおける法学派拠点の形成:学説整理と選択
4.権威学説を評価する
5.オスマン帝国法制と後期ハナフィー派
6.文献目録
2-2.マーリク派 早矢仕悠太
1.マーリク派法学の背景とその方法論
2.エジプトにおけるマーリク派法学
3.イフリーキヤへのマーリク派法学の導入
4.マーリク派法学の二次的発展
5.地域固有の法学説の展開
6.文献目録
2-3.シャーフィイー派 柳橋博之(東京大学名誉教授)
1.シャーフィイー
2.主要な法学者と著作
3.シャーフィイー派の拡大
4.他の学問分野との関係
5.文献目録
column:ペダンチックなシャーフィイー派
2-4.ハンバル派 小野仁美(東京大学大学院人文社会系研究科助教)
1.現代の研究者によるハンバル派研究
2.アフマド・ブン・ハンバル
3.ハンバル派の主要な法学者と著作
4.現代へのハンバル派の影響
5.文献目録
column:法学派としてのハンバル派の認知
2-5.ザーヒル派 狩野希望(学習院大学文学部哲学科非常勤講師)
1.消滅した法学派
2.ザーヒル派法学の特徴
3.ザーヒル派の学派史
4.ザーヒル派の研究史
5.文献目録
第3章 ハディース研究 柳橋博之
1.はじめに
2.イスラーム世界における理解
3.著 作
4.欧米におけるハディース研究
5.文献目録
第4章 文書研究
4-1.総論 三浦徹(お茶の水女子大学名誉教授)
1.法廷文書
2.19世紀ダマスクスの法廷文書
3.法廷文書研究の拡大と深化
4.訴訟と裁判
5.むすび――イスラーム法の刷新
6.文献目録
4-2.オスマン時代のシャリーア法廷関係史料 大河原知樹(東北大学大学院国際文化研究科教授)
1.はじめに――オスマン時代のシャリーア法廷関係史料の性格と様式
2.シャリーア法廷台帳
3.シャリーア法廷文書
4.オスマン時代のシャリーア法廷関係史料の所蔵・アクセス環境
5.おわりに――シャリーア法廷関係史料の研究と注意点
6.文献目録
4-3.ロシア帝政期中央アジアのシャリーア法廷文書 磯貝健一(京都大学大学院文学研究科教授)
1.帝政期法廷文書研究の意義
2.文書へのアクセス
3.法廷文書の種別と書式
4.研究状況と今後の課題
5.文献目録
4-4.カージャール朝期法廷文書(イラン) 阿部尚史(お茶の水女子大学文教育学部准教授)
1.はじめに
2.カージャール朝期の法廷史料の研究動向
3.カージャール朝期イランの法学者
4.カージャール朝期のシャリーア法廷
5.カージャール朝期のシャリーア法廷文書
6.結びにかえて――カージャール朝法廷文書を用いた研究の現状
7.文献目録
column:アミールカビーリヤーン文書
4-5.モロッコの公証人文書~東洋文庫所蔵皮紙文書を中心に 佐藤健太郎(北海道大学大学院文学研究院教授)
1.はじめに
2.モロッコの公証人文書
3.東洋文庫所蔵皮紙文書の来歴と概要
4.証書の構成
5.証書の内容
6.他料紙の参照
7.カーディーの認証
8.文書の成立と展開過程
9.おわりに
10.文献目録
column:インテリアとしての古文書
事項人名索引
あとがき
執筆者紹介
関連情報
『イスラーム法研究入門』刊行記念 (東京大学中東地域研究センター(UTCMES)、東京大学人文社会系研究科イスラム学研究室 2025年4月11日)
https://www.l.u-tokyo.ac.jp/event/2024/page_00066.html

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