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空と黄色の花のイラスト

書籍名

東大リベラルアーツ講義 空気はいかに「価値化」されるべきか 「かけがえのなさ」の哲学

判型など

248ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2025年2月17日

ISBN コード

978-4-13-063384-0

出版社

東京大学出版会

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空気はいかに「価値化」されるべきか

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本書は、2023年度春学期に東京大学教養学部で行われたオムニバス講義「30年後の世界へ ― 空気はいかに価値化されるべきか」の講義録です。講義を主催した東アジア藝文書院は、東京大学とダイキン工業株式会社との産学協創協定のもとで発足した研究教育組織で、「東アジアからの新しいリベラルアーツ」の構築を目指しています。この産学協創は、未来の社会に向かうヴィジョンとして「空気の価値化」を掲げています。しかし、そもそも空気を価値化するとはいったいどのようなことを指しているのでしょうか。「空気の価値化」はそのような問いを生まずにはいられない挑発的な命題です。

産業のイノヴェーションが叫ばれている今日、新たな価値を創造し提供することは多くの企業にとって喫緊の課題です。「空気の価値化」とは、空気に新たな価値を見出し、それを産業の新たな成長点に位置づけることを意味していると言えるでしょう。一方で、気候変動がもたらす深刻な複合危機を目の当たりにしているわたしたちは、こうした意味での「空気の価値化」が、地球上の生物圏にかくも深甚な影響を与えつづけている人類の経済活動をさらに一歩進めることにほかならないことを同時に知っています。この複合危機がもたらす壊滅的なカタストロフィを回避しなければならないのはもちろん、文化的な生活を営むために快適な空気を享受することも必要であるというダブルバインドのなかで、わたしたちは課題の解決に向かって確実に進んでいけるでしょうか。いや、解決すべき課題とはそもそも何なのでしょうか。

考えてみれば、このダブルバインドは、価値を利潤であると定義する企業と、価値は学問そのものにあると信じる大学との価値観の違いを規定するものであるとも言えます。したがって、「空気はいかに価値化されるべきか」という問いは、実はそのまま、価値観を異にする企業と大学が、いかにして人類社会の公共善のために共に協力していくべきかという問いに直結しています。ですから、「空気の価値化」という命題のもとで解決すべき課題とは、結局のところ、ぶつかり合う価値観を否定し合うのではなく、相乗的に補い合いながら新たな価値を見出していく技法 (アート) の創出に外なりません。

本書にはさまざまな分野の専門家がそれぞれの立場からこの問いへの応答を試みています。それぞれの論考は異なる価値観にもとづいており、時には激しくぶつかり合っています。一方で、問いに対する明確な回答が本書によって与えられてはいません。ただし、価値観の相剋がそのまま表出しつつ共存し、なおかつ人々に異なるインスピレーションを与えていくことが可能な場として、大学が、とりわけ、リベラルアーツが重要な役割を果たしていることは、きっと本書をお読みくださるすべての方々の目には明らかであるはずです。ここにはきっと、大学の希望があります。そして、大学の希望は、きっと社会の希望へと続いているはずです。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石井 剛 / 2025)

本の目次

まえがき(石井 剛:東京大学総合文化研究科教授、東京大学東アジア藝文書院院長)

第I部 空気と共に生きる


第1講 花する空気(中島隆博:東京大学東洋文化研究所教授・同所長)
第2講 ひとと空気の歴史社会学――空気にも歴史がある(佐藤健二:東京大学名誉教授・同大副学長)
第3講 空気・空間・空気感(川添善行:東京大学生産技術研究所准教授)

第II部 「価値化」が創出する新しい価値観

第4講 現代アートと空気――可視化と価値化(山本浩貴:実践女子大学文学部美学美術史学科准教授)
第5講 「空気の価値化」を通じて考える「知の価値」(五神 真:理化学研究所理事長、東京大学前総長)
第6講 空調メーカーが試行している空気の価値化(香川謙吉:ダイキン工業株式会社)

第III部 空気の社会・経済的価値

第7講 「新しい価値」の台頭と空気の価値化(坂田一郎:東京大学工学系研究科教授)
第8講 グローバル・コモンズを守り育むために(石井菜穂子:東京大学理事)
第9講 「空気の価値化」という欺瞞と炭素植民地主義(斎藤幸平:東京大学総合文化研究科准教授)

終 講 「根源的な中立」の学問――来るべき「空気の哲学」のために(石井 剛)
 

関連情報

講義:
2023年度開講
学術フロンティア講義「30年後の世界へ― 空気はいかに価値化されるべきか」 (OCW – UTokyo OpenCourseWare)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/course_11463/
 
第1回 ガイダンス 石井 剛
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2397/
 
第2回 花する空気 中島 隆博
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2398/
 
第3回 資本主義と空気の価値~市場・国家・社会的共通資本~ 安田 洋祐
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2399/
 
第4回 時間をあたえあう―タンザニアの零細商人の贈与論 小川 さやか
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2400/
 
第5回 「空気の価値化」を通じて考える「知の価値」 五神 真
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2401/
 
第6回 空調メーカーが試行している空気の価値化 香川 謙吉
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2402/
 
第7回 現代アートにおける空気の可視化 山本 浩貴
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2403/
 
第8回 建築と空気 川添 善行
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2404/
 
第9回 ステイクホルダー価値を軸とした企業社会のパラダイムシフトと空気の価値化 坂田 一郎
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2405/
 
第10回 ひとと空気の歴史社会学:空気にも歴史がある 佐藤 健二
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2406/
 
第11回 グローバル・コモンズを守り育むために 石井 菜穂子
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2408/
 
第13回 空気の哲学としての新しいリベラルアーツへ―責任と希望の学問 石井 剛、野澤 俊太郎
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2409/
 

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