東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

上巻は青、下巻は赤の表紙

書籍名

アメリカ帝国 [上・下] グローバル・ヒストリー

著者名

A・G・ホプキンズ (著)、菅 英輝、森 丈夫、中嶋 啓雄、 上 英明 (訳)

判型など

[上巻] 560ページ、A5判、[下巻] 372ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2025年4月15日

ISBN コード

[上巻] 9784623097715
[下巻] 9784623097722

出版社

ミネルヴァ書房

出版社URL

書籍紹介ページ

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アメリカ帝国 [上巻] アメリカ帝国 [下巻]

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本書はA. G. Hopkins, American Empire: A Global History (Princeton: Princeton University Press, 2018) の邦訳である。著者のホプキンズは、イギリス人歴史家で帝国史研究を長らく牽引してきた泰斗であり、1000頁を超えるこの大著には長年にわたって培われてきたグローバリゼーションと帝国という世界史の一大テーマに関する知識が凝縮されている。
 
本書の1番のオリジナリティは、まさに地球大の史的文脈においてアメリカ帝国の長期的変貌を捉え直していく点であろう。本書は、アメリカ合衆国が本格的に植民地経営に携わっていた1898年から1959年を帝国の時代としつつも、その前後に何が世界で起きていたのかを明らかにすることによって、アメリカ帝国を広大な時空間において相対化していくことに大きな紙幅を割いている。すなわち、アメリカ帝国は、(1) 独立後のイギリス帝国への従属 (1756-1865年) から、(2) 近代性を獲得し、帝国主義へと歩みを進めていく時期 (1865-1914年) を経て、(3) 近代帝国としての絶頂期とその解体への道 (1914-1959年) を辿り、最後に (4) ポストコロニアルな帝国後の時代 (1959年以降) を迎えたのだという。
 
と同時に、本書のもう一つ注目すべきオリジナリティは、帝国化したアメリカの動態を分析する上で、それまで個別に扱われてきたフィリピン、ハワイ、プエルトリコという3つの島嶼植民地に加え、植民地ではないが、事実上の支配下にあったキューバを加え、同時に比較考量した点である。これにより、単にスペイン帝国からアメリカ帝国の支配下へと入っていく共通の歴史的経緯が明らかになるだけでなく、それぞれの地域において繰り広げられた帝国支配と抵抗の政治的・経済的・文化的構図において多くの意外な共通点が見られること、また、差異が見られる場合にはなぜそれが生じたのかを説明することができるのだという。実際、本書では第二次世界大戦が終結する1945年ではなく、1959年を帝国の終焉と見ているが、この年にはハワイとアラスカの州昇格に加え、キューバ革命も起きていた。
 
帝国は、それ自体が変貌していくグローバリゼーションの産物であり、その歴史は世界史的な視座から評価されなければならない。イギリス帝国やフランス帝国、スペイン帝国をはじめ、他の西洋帝国と比較する視座も多く散りばめられ、極めてスケールの大きな議論が展開されるため、膨大な知識の量に圧倒される読者もいるかもしれない。しかし、逆にいえば、過去半世紀にわたる先行研究の知見を体系的にまとめている本書は、「帝国」に関心を持った初学者にとって、学習のスタート地点ともなりうる本である。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 上 英明 / 2025)

本の目次

【上巻】

 日本語版への序文
序 文

プロローグ 解放の教訓――イラク、一九一五~一九二一年

第一章 三つの危機とその帰結
  さまざまな選択肢の中から選びとる
  「アメリカ例外主義という国民イデオロギー」を超えて
  帝国――「バラはどんな名前で呼んでもバラなのか?……」
  グローバリゼーションと帝国
  時間と運動
  「さらに路が延びていて、さらなる労苦を思う」

 第I部 脱植民地化と従属――一七五六~一八六五年

第二章 軍事=財政国家の伸長と後退
  背景と歴史的展開
  大収束?
  名誉革命と例外的な軍事 =財政国家
  イギリス軍事 =財政国家の生成
  新世界秩序
  戦争、再建、改革
  イギリス――「永続性と変化の連合体」
  「日の沈まない大帝国」
  「知られざるものの霧の中に投影された過去のイメージ」

第三章 独立革命から憲法の制定へ
  ハリー・ワシントンと出現しつつあるグローバル秩序
  「新しい植民地システム」に向けて
  動き出すジョン・カンパニー〔東インド会社〕
  期待の低下がもたらす革命
  「連邦という一つの頭を持つ諸州の不可分の連合」
  「騒々しさと対立のスペクタクル」
  「帝国ではなく、帝国についての計画である」

第四章 独立に向けての戦い
  真夜中の子どもたち
  革命のレトリックと現実
  従属的発展のジレンマ
  文化的持続
  「野生の森を、喜ばしい自由の邸宅に変える」

第五章 編入のための戦争
  「未来の偉大な国」
  「財産、排他的権利という素晴らしい考え」
  一八一二年――第二の独立戦争?
  「アメリカはいかに敵を粉砕し、いかに拡大するかを知っている」
  「反発する力と耐える力の間に起こる、避けられない争い」
  「頼みます。できればあまり関わらないようにしたいのです」
  戦争と平和再考

 第II部 近代と帝国主義――一八六五~一九一四年

第六章 不均衡な発展と帝国的膨張
  「大地は不安げに新しい時代と対面し」
  「ペキュニアを通じて」――モダーン・グローバリゼーションへの道
  「おお兄弟よ、汝の国を愛せよ」
  大規模なデフレ
  グローバリゼーションと「新」帝国主義
  ライオン、ハイエナ、帝国をめぐる争奪
  「新時代。封建的娯楽ではなく、社会的進歩の時代」

第七章 真の独立の達成
  「混乱と苦痛の真っ只中で」
  「官職かその希望以外は、すべて失われた」
  「素晴らしい信用! 近代社会の礎」
  コスモポリタン・ナショナリズムの文化
  「連邦」から「アメリカ」へ

第八章 非例外的な帝国の獲得
  「われわれの世界での機会、世界に対する責務、そして世界的栄光」
  一八九八年の戦争をめぐる闘い
  ドン・キホーテの最後の疾駆
  破壊の方法の動員
  「抑えがたい膨張傾向が……再び現れているように思われる」
  「われわれは専制君主としてではなく、世話をする天使としてやってきた」
  「運命、神意、そしてドル」

第九章 膨張する世界に対する島嶼的視座
  「現代政治のジャガナートの山車」
  薬を甘くすること
  キューバ――「名誉と謝意を完全に欠いている多くの堕落した連中」
  プエルトリコ――「ピクニックとして歴史の中へ」
  フィリピン――「私が偶像視する土地、私の悲しみの中の悲しみ」
  ハワイ――「急速に滅亡している民族」
  選択による戦争

コラム ターザンの鏡に映った近代

 

【下巻】

第III部 帝国と国際的無秩序――一九一四~一九五九年


第十章 近代帝国システム――征服から崩壊まで
  「アメリカの世紀」か?
  孤立か統合か
  第一次世界大戦と平常への復帰
  「近代史における最大の経済的破局の一つ」
  帝国を破壊し、再建するための戦争
  第二の植民地占領
  解放 ―植民地スタイル
  終 幕

第十一章 忘れられた帝国を統治する
  買い手の後悔
  「より高貴な運命を有するグレーター・イングランド」
  近代化の使命
  帝国を所有すること――議会と憲法
  ロビイストたちと自由
  「強い導き手による教育」
  「われわれの成功の連続に比べれば、失敗は小さな波紋ほどにもならない」
  展 望

第十二章 カリブ海のカーニバル
  享楽の島々
  プエルトリコ――「われわれの島嶼領土を管理する最良の方法の例」
  キューバ――「あの地獄のような小共和国」
  「今、もはや、われわれは我慢できない」

第十三章 太平洋の楽園
  「青い空が私を呼ぶ場所」
  「ハワイ――平和な島での幸せな世界」
  フィリピン――「正義と権利の穏やかな行使から恣意的な統治へ」
  「われらの旗が舞うまで」
  島嶼帝国を振り返って

第十四章 「混乱した植民地主義の黄昏」
  「権限を放棄して責任を保持する」
  世界情勢
  踏みとどまること
  太平洋における防衛
  カリブ海における脅迫とコラボレーション
  前 へ
  太平洋における進歩?
  カリブ海における対比
  結論――「地球全体にとってのアメリカ様式の輝かしい模範」

 第IV部 帰 結――ポストコロニアル・グローバリゼーション

第十五章  ポストコロニアル時代における支配と衰退
  「われわれが歴史に対して負っている唯一の義務は、歴史を書き直すことだ」
  グローバリゼーションと帝国
  ポストコロニアル・グローバリゼーション
  合衆国と野心を持ったヘゲモン
  キャプテン・アメリカ――続くのか?

エピローグ 解放の教訓――イラク、二〇〇三~二〇一一年

訳者解説
訳者あとがき

人名・事項索引
 

関連情報

原著:
A. G. Hopkins著 『American Empire: A Global History』  (Princeton University Press刊 2018年)
https://press.princeton.edu/books/hardcover/9780691177052/american-empire
 
書評:
酒井啓子 評「島嶼諸国の植民地化を本格研究」 (『朝日新聞』 2025年8月2日)
https://book.asahi.com/article/15942841

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