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書籍名

教養としての機械学習

著者名

杉山 将

判型など

168ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2024年2月27日

ISBN コード

978-4-13-063459-5

出版社

東京大学出版会

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教養としての機械学習

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「AIって、どうやって学んでいるんですか?」こうした質問を、これまで講義や講演の場で何度も受けてきました。今ではAIという言葉はすっかり身近になり、検索エンジンやスマートフォンの音声アシスタント、自動翻訳など、日常生活のさまざまな場面で使われています。しかし、その仕組みとなると、意外と知られていないのが現状です。
 
この本『教養としての機械学習』は、そうした素朴な疑問にこたえるために書いたものです。AIの専門家ではない方々、たとえば文系の学生や一般の社会人の方にも、機械学習の基本的な考え方を理解してもらえるよう、数式をなるべく使わず、やさしい言葉で説明することを心がけました。
 
本書の中心となるテーマは「教師付き学習」です。これは、正解がついたデータをたくさん与えることで、未知のデータにも正しく対応できるようになるしくみです。たとえば、カメラ画像から人や車を見つける、医用画像から病気を検出する、あるいは音声を文字に変換する、といった応用がすでに行われています。
 
私自身、長年この教師付き学習の「学習法」そのものに注目して研究してきました。というのも、モデルをどう設計するかと同じくらい、「どう学ばせるか」という部分が、実はとても重要だからです。本書では、モデルの話に偏ることなく、学習の仕組みや工夫のポイントに焦点をあてています。モデルとは切り離しても成立する、汎用的な学習の原理があるという視点から、読者のみなさんにもその面白さを感じてもらえたらと思っています。
 
また、教師付き学習が社会のさまざまな場面で使われている実例も紹介しています。たとえば、医療現場での診断支援や、地震の解析、高齢者の対話支援など、いずれも技術が人の生活を助ける役割を果たしている例です。AIを「人に代わるもの」ではなく、「人を支えるもの」としてとらえる視点も、本書では大切にしています。
 
そしてもうひとつ、本書で伝えたかったのは、技術を「よくわからないけれどすごいもの」として使うだけではなく、その背景にある仕組みを知ろうとする姿勢の大切さです。AIはますます私たちの社会に入り込んでいきます。だからこそ、その原理や限界を理解し、必要に応じて疑問を持てることが、これからの情報社会を生きる上での重要な素養になると考えています。

本書が、機械学習への入口として、またAIと向き合うための思考のきっかけとして、多くの方にとって役立つものになれば幸いです。
 

(紹介文執筆者: 情報理工学系研究科 教授 杉山 将 / 2025)

本の目次

はじめに

1 機械学習とは何か――人工知能(AI)の基礎知識
1.1 人間の学習能力をコンピュータで再現する「機械学習」
1.2 AI研究、これまでとこれから
1.3 人工知能の/による/のための研究

2 人工知能と社会
2.1 研究者とともに、学生とともに、エンジニアとともに
2.2 さまざまな分野におけるAI技術の応用
2.3 AIと社会の関係

3 機械学習の基礎
3.1 AIの学習モデルと学習法
3.2 3種類の機械学習
3.3 教師付き学習とは
3.4 教師なし学習とは
3.5 強化学習とは
3.6 機械学習の原理:「学習する」とは
3.7 なぜ教師付き学習で予測が当たるのか?
3.8 直線で分離できない問題への対応

4 高度化する教師付き学習
4.1 誤りを含む教師情報への対応
4.2 弱い教師情報の活用
4.3 限られた情報からロバストに:信頼できる機械学習に向けて
4.4 理研AIPに見る汎用基盤研究の現在地

5 今後の展望
5.1 モデルと学習法と、ある種の制約
5.2 機械学習の新技術:生成AI
5.3 AIと人間の未来
 

関連情報

新刊試し読み:
杉山将 著『教養としての機械学習』試し読み (東京大学出版会 | note 2024年3月22日)
https://note.com/utpress/n/n3a263d28afbd
 
講演動画:
東京大学理学部オープンキャンパス2025 講演「機械学習研究のこれまでとこれから」杉山将教授 (東京大学大学院理学系研究科・理学部 2025年9月4日)
https://www.youtube.com/watch?v=O5nqAXlA8QI

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