東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

グリーンの表紙に森の写真

書籍名

Ecological Research Monographs Integrative Forest Management and Silviculture (統合的森林管理と施業) Harmonizing Conservation and Production (保全と生産の調和)

著者名

OWARI Toshiaki、 SUZUKI N. Satoshi、 TANAKA Nobuaki、 FUKUI Dai (編)

判型など

292ページ

言語

英語

発行年月日

2025年10月2日

ISBN コード

978-981-95-1016-0

出版社

Springer Singapore

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

Integrative Forest Management and Silviculture

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は、東京大学北海道演習林が60年以上にわたり実践・発展させてきた独自の森林管理手法である「林分施業法 (Stand-based Silvicultural Management System)」を、学術的および実践的両面から体系的に解説したモノグラフです。本書の最大のオリジナリティは、森林生態系の保全と木材の生産という、しばしば相反するものとして捉えられてきた二つの目的を、単一の森林空間の中で同時に実現しようとする統合的アプローチを、長期にわたる実証データとともに提示している点にあります。
 
林分施業法は、画一的な皆伐や単一樹種による人工植栽に依存せず、各林分の構造や立地条件、攪乱履歴に応じた柔軟な施業を行うことを基本理念としています。これは、気候変動によって顕在化する森林の脆弱性に対し、レジリエンス、生物多様性、生態系機能を重視する管理への転換を示すものであり、持続可能な社会の構築という地球規模の課題に対する重要な実践例といえます。
 
本書ではまず、北海道演習林が有する北方針広混交林の地形・気候・生物相といった自然基盤について、長期モニタリングに基づき丁寧に解説しています。その上で、林種区分調査や単木択伐の具体的手法、GIS・GNSS・UAVなどのデジタル技術を活用した精密な森林管理の実際を紹介し、理論と現場を有機的に結び付けている点も特徴的です。
 
さらに、生物多様性の保全、炭素吸収や水資源供給といった生態系サービス、野生動物被害や病虫害といった管理上の課題にも正面から向き合い、成功例に加えて困難や限界についても率直に議論しています。本書は、自然科学の枠を超え、社会との関係性の中で森林を捉える視座を提供するものであり、これから研究に取り組む学生にとって、「現実社会に根差した卓越した研究とは何か」を考えるための格好の導入書となっています。
 
【専門課程を志す学生の皆さんへ:学問分野の壁を超えて】
本書の核心に位置づけられる林分施業法は、1950年代に北海道演習林長であった高橋延清教授が抱いた、「森林を個々の小さな林分の集合体として捉え、それぞれに適した働きかけ (施業) を行うべきである」という信念と、「野生動物を含む生態系全体の要請を考慮する必要性」という洞察を起点として確立されました。この考え方は、国内外の林業実践に学びつつ、長期にわたる観察と試行錯誤を通じて磨かれ、現在に至るまで進化を続けています。
 
学術研究とは、自然科学と人文社会科学といった分野の枠を超え、現実社会が抱える複雑で変化し続ける課題に対して、歴史的背景を踏まえ、倫理的な視点を持ち、長期的な時間軸で粘り強く向き合う営みです。気候変動、野生動物による被害、外来種の侵入など、将来の不確実性が複合的に高まる中で、東京大学北海道演習林の林分施業法は、「完成された理論」ではなく、「試行錯誤と技術革新を重ねながら適応していく実践知」として位置づけられます。
 
将来どの分野に進むとしても、本書が示す林分施業法の思想と実践は、皆さんに「現場の変化から問いを立て、データと理論に基づいて社会へ還元する」という研究姿勢の重要性を教えてくれるでしょう。また、人文社会科学を志す学生にとっても、「生産と保全を調和させる」という基本理念を、制度設計や技術、政策へと具体化していくプロセスは、学問が社会に貢献し、国際的な価値を持つための確かな指針となります。本書は、持続可能な未来に向けた統合的知性の実践例として、研究者としての第一歩を踏み出す皆さんを力強く後押しする一冊といえるでしょう。
 

(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 教授 尾張 敏章 / 2026)

本の目次

第I部 序論
1 本書の概要
  尾張敏章・鈴木智之・田中延亮・福井 大
2 東京大学北海道演習林の管理の歴史
  尾張敏章・鈴木智之
 
第II部 森林生態系
3 立地・地形・地質および土壌
田中延亮
4 気候および水文
田中延亮
5 森林植生と生態学的研究
鈴木智之・後藤 晋
6 動物相とその生物学
福井 大・鎌田直人
 
第III部 森林管理と施業
7 林分施業法の概要
尾張敏章
8 林分施業法の実践
尾張敏章
9 収穫・木材販売および林道
尾張敏章
10 天然更新・人工植栽施業の実践
鈴木智之・坂上大翼・後藤 晋・尾張敏章
11 苗木生産
坂上大翼・後藤 晋・鈴木智之
 
第IV部 多様な生態系機能の管理と保全
12 森林管理が生態系プロセスに及ぼす影響
鈴木智之
13 大規模撹乱後の森林回復過程と修復
鈴木智之
14 生物学的脅威:虫害・病害および獣害
福井 大・鎌田直人
15 生物多様性の保全
福井 大・鈴木智之
16 東京大学北海道演習林における生態系サービス
鈴木智之・田中延亮
 
第V部 将来展望
17 統合的森林管理・施業の課題と展望
  尾張敏章・鈴木智之・田中延亮・福井 大
 

関連情報

書籍紹介:
森を守り、育てる―保全と生産の調和を目指す統合的森林管理 (東京大学大学院農学生命科学研究科·農学部ホームページ)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/news/news_20251105-1.html

このページを読んだ人は、こんなページも見ています