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薄いグレーベージュの表紙

書籍名

〈英語〉文学の現在 (いま) へ カズオ・イシグロ 記憶、孤独、そして「関係性」の方へ

著者名

秦 邦生

判型など

448ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2025年11月15日

ISBN コード

978-4-384-06042-3

出版社

三修社

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カズオ・イシグロ

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本書『カズオ・イシグロ――記憶、孤独、そして「関係性」の方へ』は、2017年にノーベル文学賞を受賞した作家カズオ・イシグロのデビューから2026年現在までに刊行された全長篇八作品を主な題材として、そのキャリアの全体像を描く試みです。長崎に生まれ、5歳にしてイギリスに渡って英語で執筆する作家となった彼の人生と作品は、『日の名残り』、『わたしを離さないで』、『遠い山なみの光』など映画化されて有名になった作品のみならず、読みやすい邦訳を通じても日本の多くの読者に親しまれています。
 
本書では、イシグロ自身の作品とそれに関する書評・先行研究のみならず、ほかにもさまざまな資料を駆使することで、入門者のみならず、彼の作品に長く親しんできた読者にも新たな知見が得られるような本にすることを目指しました。第一に重視したのは、定期刊行物のみならず動画や音声でも多数出回っているイシグロのインタヴューにおける発言です。新作を刊行する毎にイシグロは、自作観について、社会状況について、さらには実人生の軌跡についてかなり率直にインタヴュアーたちの問いに答えています。それらの発言を補助線とすることで長篇作品をさらに深く読み込むことにとどまらず、俯瞰的に総合することによって、本書ではイシグロの人生と作家としてのキャリアを「評伝」的に描いてみました。
 
第二の資料として重視したのは、2015年にイシグロがテキサス大学オースティン校のハリー・ランサム・センターに売却した未刊行のアーカイヴ資料です。本書ではとくに、作品の執筆過程でイシグロが書き残した多種多様なメモ類を重視して、彼の作品の発想源や構想のプロセスを具体的に解明することを試みました。イシグロは「物語芸術」の伝統にきわめて自覚的な作家です。特に豊富なメモが残っている第二作『浮世の画家』から第六作『わたしを離さないで』に関しては、古代ギリシア叙事詩からドストエフスキー、カフカなどの西洋文学の古典、探偵小説、黒澤明や溝口健二監督の日本映画まで、さまざまな作品を「インターテクスト」として読み合わせることで、イシグロ作品の特異性を浮き彫りにすることを試みました。例えば『オデュッセイア』と『わたしを離さないで』にはどのような精神的類縁性があるのか――この問いに関心のある方は、本書の第六章を読んでみてください。
 
本書の構成はきわめてオーソドックスです。まず序論では作家デビュー以前のイシグロの略伝をまとめたのち (1) 記憶と語り手、(2) 孤独と関係性の相剋、(3)「設定」の問題、(4) 周縁化された人々への眼差し、(5) モラリスト的な相貌、の5つのポイントに沿って、本書で繰り返し扱われるテーマをまとめました。その後の各章では、長篇小説一作ずつのあらすじの紹介からモティーフや構成の精読まで、丁寧に扱っています。未読作品についての章は飛ばして、関心のある作品についての章を中心に読んでも大丈夫です。
 
イシグロ作品の初心者から熟練の読者まで、多くの皆さんに手に取っていただけると幸いです。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 秦 邦生 / 2026)

本の目次

序章 カズオ・イシグロを読むために
ハリネズミの寓話
カズオ・イシグロ小伝(小説家デビュー以前まで)
本書の構成といくつかのテーマ
批評史の概略
 
第一章 『遠い山なみの光』――「始まり」と悼みの光景
作家イシグロの出発点
『遠い山なみの光』あらすじ
「子供」から「母親」へ
日本の「再出発」とそのひずみ
「始まり」と「母性」のジレンマ
「子殺し」の反復と変奏
響き合う傷のかたち
「原爆」という主題
 
第二章 『浮世の画家』――「男らしさ」の美学とその蹉跌
職業作家への道
『浮世の画家』あらすじ
「メタファー」としての日本
「日本人」になること、ならないこと
「男らしさ」の美的教育
ほかの登場人物たちの声
「炎」と「はかなさ」の気配
歴史のアイロニー
 
第三章 『日の名残り』――小さき者たちの理想
「国際的作家」への大きな一歩
『日の名残り』あらすじ
サーヴァントとは誰か
イングリッシュネスとステレオタイプの再加工
「サーヴィス」の理想とその裏面
矮小なものの叙事詩
男性性と感情の否認
「わたしたちはみな執事だ」

第四章 『充たされざる者』――ありふれたトラウマの物語
「カオス」としての生
『充たされざる者』あらすじ
「夢」への転回と「小さな場所」
変わりゆく世界への意識
コスモポリタニズムとアウトサイダーの立場
有限な「家族の時間」
「パフォーマンス」の不安
「傷」と「慰め(コンソレーション)」

第五章 『わたしたちが孤児だったころ』――「気泡」の外部へ
「ノスタルジー」の善用
『わたしたちが孤児だったころ』あらすじ
「子供」の世界と「大人」の世界
探偵小説との戯れ
コスモポリタン都市の理想と現実
イギリス、日本、中国
孤児たちと女性たち
「愛」の問題

第六章 『わたしを離さないで』――「羨む者たち」の共同体
「オモチャの戸棚」
『わたしを離さないで』あらすじ
原爆からクローンへ
福祉国家の夢とその残滓
なんのためのアート?
隠された「嫉妬」、演じられた「羨望」
「愛」の凡庸さ
「有限な生」に向き合う

第七章 『忘れられた巨人』――晩年のスタイル
十年ぶりの長篇
『忘れられた巨人』あらすじ
歴史の「空白期間」
忘却の霧の向こう側
埋められた者たちの痕跡
断片をつなぎ合わせる
「関係性」への転回
死にゆく者たちの孤独

第八章 『クララとお日さま』――フィクションと「赦す」こと
ノーベル賞受賞と両親の死
『クララとお日さま』あらすじ
絵本からの出発
ポストヒューマン・ケアの問題
「愛」と不平等
成長の時間性
「赦し」をめぐって
ポスト・トゥルース時代のフィクション
 
引用文献一覧
カズオ・イシグロ 文献案内
あとがき
索引
 

関連情報

書籍紹介:
新刊紹介『カズオ・イシグロ 記憶、孤独、そして「関係性」の方へ』 (三修社 | note 2025年11月11日)
https://note.com/sanshusha/n/n04eef2028be4
 
書評:
<本の棚> 田尻芳樹 評 (『教養学部報』672号 2026年5月7日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/672/open/672-2-01.html
 
川端康雄 選書 (『みすず 読書アンケート 2025』 2026年2月16日)
https://www.msz.co.jp/book/detail/09842/
 
小川公代、木村朗子 選書「2025年下半期読書アンケート」 (『図書新聞』3716号 2025年12月20日)
https://toshoshimbun.com/product__detail?item=1765505169762x372201943511859200
 
【二〇二五年回顧総特集】英文学 (下楠昌哉氏) に言及 (『週刊読書人』 2025年12月19日号)
https://dokushojin.net/news/1211/
 
講演:
2025年度 東京女子大学 学会 国際英語部会 講演会「カズオ・イシグロの「小さな」世界文学 『遠い山なみの光』と『わたしを離さないで』を中心に」 (東京女子大学 2026年1月13日)
https://www.twcu.ac.jp/main/event/2025/0113_01.html
 
成城大学大学院文学研究科主催 学術講演会 「カズオ・イシグロと〈始まり〉の探求」 (成城大学大学院文学研究科 2021年12月2日)
https://www.seijo.ac.jp/events/jtmo420000011cw3.html
 

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