
書籍名
中国文明の起源と伝播 考古科学による多角的アプローチ
判型など
250ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2025年10月8日
ISBN コード
9784642093699
出版社
吉川弘文館
出版社URL
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本書『中国文明の起源と伝播―考古科学による多角的アプローチ』は、文部科学省科学研究費助成事業学術変革領域研究 (A)「中国文明起源解明の新・考古学イニシアティブ」(JP20H05815) の一環である計画研究「考古遺物の材料分析と産地推定」(JP20H05817) の先駆的成果を体系化した学術書です。近年の考古学は、従来の形式学的研究や文献史学との照合を基盤としつつ、自然科学や物理科学等との緊密な連携による考古科学 (Archaeological Science) として劇的な進化を遂げました。特に中国大陸における文明形成プロセスの解明において、これら学際的アプローチは、もはや補助的手段ではなく、歴史記述を再構築するための不可欠なパラダイムとなっています。
本書の最大の独創性は、従来「権威の象徴」として観念的に語られがちであった威信財――漆器、辰砂、玉器、特殊土器等の物質文化を、徹底した物質科学的視点から再定義した点にあります。最新の非破壊分析や微量元素・同位体分析を駆使し、原料産地の同定や製作技法を定量的に復元することで、単なる「モノの流通」の把握を超えた、初期国家形成期における資源管理戦略や技術体系の波及、およびその変容プロセスを動態的な社会システムとして記述することに成功しました。微細な組成から社会構造を照射するその手法は、モノと人間の関係性を問い直す新たな視座を提示しています。
学術的意義において特筆すべきは、本書が単なる分析データの集成に留まらず、考古科学における「方法論的厳密さ」を強く喚起している点です。分析機器の高度化・汎用化が進む現代では、測定原理の深い洞察を欠いたデータ運用は、恣意的な歴史解釈を導くリスクを孕みます。本書は、遺物の物理的・化学的特性に応じたサンプリングの妥当性、分析環境の制御、誤差評価のプロセスを詳述しており、理化学的データがいかにして歴史学的エビデンスへと昇華されるべきかという学問的作法を再定義しています。これは、専門的研究に従事する若手研究者にとって極めて示唆に富む指針となるでしょう。さらに、本書の有する現代的意義も看過できません。物質の経年変化や組成の解明は、文化財保存修復の科学的根拠を提示し、持続可能な文化遺産保護政策に直結します。中国文明という壮大なスケールを通じ、技術交流や環境適応の軌跡を紐解くことは、現代の諸課題を人類史的な時間軸で捉え直す契機となります。
本書は、高度な専門知を通じてその背後にある人間社会の営みを浮き彫りにすることを目指しています。本書との対話が、皆様の独創的な研究課題を抽出するための触媒となり、次世代の学際研究を牽引する一助となることを願って止みません。
(紹介文執筆者: 史料編纂所 特任助教 渋谷 綾子 / 2026)
本の目次
序章 中国文明起源研究と考古科学 中村慎一
はじめに
1 モノの移動と考古科学
2 《中国文明起源》プロジェクト
総論 考古遺物の材料分析と産地推定 渋谷綾子
はじめに
1 プロジェクトの概要
2 研究成果―何がわかって何がわからないのか―
3 プロジェクト5年間の成果からみた今後の展望
おわりに
第I部 中国文明の起源と発展
第1章 中国新石器時代~青銅器時代初期の儀礼用土器 秦小麗
はじめに
1 新石器時代の儀礼用土器の出現に関わる社会的背景
2 二里頭文化期の墳墓から出土した儀礼用土器
3 二里頭文化期の遺跡で墳墓以外の場所から出土した儀礼用土器
4 二里頭文化期における儀礼用土器の遠距離交易
5 二里頭文化期の儀礼用土器と原始磁器―長江下流域との関係―
おわりに―二里頭文化期の儀礼用土器の生産背景―
第2章 先秦時代の朱砂(水銀朱)使用 方輝
はじめに
1 中国先史時代の朱砂遺物の再考察
2 商周時代の朱砂の遺物に関する問題点
おわりに
第II部 考古遺物の分析と産地推定
第1章 科学の眼で土器をみる―胎土分析からのアプローチ― 石田智子
はじめに
1 考古資料としての土器の重要性と胎土分析の意義
2 日本における胎土分析の現状と課題
3 中国における胎土分析の展開可能性
おわりに
第2章 古代遺跡出土朱の産地推定―硫黄、水銀、鉛同位体比分析のアプローチ―
南 武志・高橋和也・斎藤誠史
はじめに
1 ベンガラと鉛丹
2 朱
3 朱の化学分析
4 硫黄、水銀、鉛同位体分析法
5 同位体分析を用いた辰砂鉱山鉱石と遺跡朱の分析
おわりに
第3章 硫黄同位体比分析による遺跡出土朱の産地推定―現状と展望―
南 武志・高橋和也・方輝・中村慎一
はじめに
1 硫黄同位体と硫黄同位体比
2 辰砂鉱山
3 鉱脈の違い
4 遺跡からの朱の採取
5 硫黄同位体比の測定法およびδ34S値の算出法
6 EA-IRMS法を用いた時の注意点
7 装置メンテナンスの重要性
8 超微量硫黄同位体分析システムについて
おわりに
第4章 古代文明研究における残存デンプン粒分析 渋谷綾子
はじめに
1 残存デンプン粒分析とはなにか
2 2000年代以降の東アジアにおける研究動向
3 残存デンプン粒研究の将来展望
おわりに
第III部 中国文明の広がり―東部ユーラシア世界との交流―
第1章 東部ユーラシア古代金属器研究の新機軸―青銅器・銅器の化学分析から― 飯塚義之
はじめに
1 金属組織の観察と化学分析法
2 東部ユーラシアの青銅器および銅器の化学的特徴
3 草原系の銅合金―青銅器と銅器―
4 銅合金の材料物質と金属の製錬
5 銅製錬スラグの観察と化学分析
6 化学分析から考える銅合金遺物と今後の課題
第2章 縄文時代前期の玉器石材―東部ユーラシアにおけるネフライトの利用と物流― 飯塚義之
はじめに
1 「石材」の化学分析―岩石学的な手法と考古学的な要請―
2 「玉」の考古岩石学
3 東部ユーラシアにおける新石器時代のネフライト
4 石器石材の岩石学的化学分析
5 縄文時代前期の石器石材の完全非破壊分析
6 白色ネフライト製の玉器
7 ネフライトはどこからもたらされたのか?
おわりに
あとがき 渋谷綾子
編者・執筆者紹介
英文目次
関連情報
【研究成果の公開】 (中国文明起源解明の新・考古学イニシアティブホームページ 2025年)
https://chugokubunmei.jp/2967
関連記事:
渋谷綾子「考古科学の基本を学ぶ」 (『本郷』No.181pp.11-13 2026年1月)
https://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b10154934.html

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