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iPS細胞でT細胞が若返る 若返った抗原特異的T細胞を用いた新しい免疫療法・免疫再生の可能性

掲載日:2013年1月23日

東京大学医科学研究所の中内啓光教授らは、人工多能性幹細胞 (iPS細胞) を介して免疫細胞の一種であるT細胞を若返らせることに成功しました。

iPS細胞を介したT細胞免疫の再生モデル c Toshinobu Nishimura 患者体内に存在する疲弊した抗原特異的CD8+ T細胞を採取し、一度iPS細胞(T-iPS細胞)へと変化させる。T-iPS細胞中には元のT細胞のTCR遺伝子再構成が保存されるため、抗原認識の記憶を保持していると考えられる。この抗原特異的T-iPS細胞を再びCD8+ T細胞へと分化させることで、元のT細胞と同じ抗原特異性・細胞傷害能を有するT細胞を得ることができる。これら再分化誘導T細胞は、T-iPS細胞が持つ高いテロメラーゼ活性の恩恵を受け長いテロメア長を有すると考えられ、また高い増殖能を持つとも考えられる。すなわち、一度iPS細胞を介することでより“良い”T細胞を産生することが可能となり、将来のより効果的な治療法開発へつながるはずである。

免疫担当細胞の一種である細胞傷害性T細胞は、度重なる外敵の侵入や慢性的な感染状態における度重なる抗原刺激により疲弊・老化して機能を発揮できない状態に陥ってしまうため、特定の疾患に対する免疫機能が低下してしまいます。

中内教授らの研究グループは、HIV-1患者体内に存在していた疲弊・老化した細胞傷害性T細胞を、iPS細胞の状態 (T-iPS細胞と呼ぶ) に初期化し、そのT-iPS細胞から再び細胞傷害性T細胞に分化誘導することに成功しました。この過程においてはT細胞が持つ特異的な抗原認識能力を保持させるような手法を探索し、T-iPS細胞から目的の抗原を認識する細胞傷害性T細胞が大量に得られるようになりました。T-iPS細胞から分化誘導して得られた細胞傷害性T細胞は、元の細胞傷害性T細胞と同じ遺伝子発現プロファイルと機能を有しており、さらに増殖能力の回復と細胞の若返りの指標である細胞表面マーカーの発現やテロメアの伸長が認められ、「抗原特異的なT細胞を若返らせて再生できる」ことが示されました。

本研究成果は、科学的裏付けと効果に乏しい現在の免疫細胞療法に代わり、iPS細胞の特性を活かして「抗原特異的なT細胞を若返らせて再生する」という全く新しい免疫細胞療法につながることが期待されます。

プレスリリース [PDF]

論文情報

Toshinobu Nishimura, Shin Kaneko, Ai Kawana-Tachikawa, Yoko Tajima, Haruo Goto, Dayong Zhu, Kaori Nakayama-Hosoya, Shoichi Iriguchi, Yasushi Uemura, et al.,
“Generation of rejuvenated antigen-specific T cells by reprogramming to pluripotency and redifferentiation”,
Cell Stem Cell 12 2013, 114-126, doi: 10.1016/j.stem.2012.11.002.
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