意外な血液細胞の分化モデルの発見 造血幹細胞の新しい分化経路と前駆細胞の同定
東京大学医科学研究所附属幹細胞治療分野の中内啓光教授、山本玲特任研究員らのグループは、従来の血液細胞の分化モデルの学説を覆す、新しいモデルを見いだしました。
造血幹細胞は骨髄中にあり、一生涯にわたって体内のすべての血液細胞(主に赤血球、血小板、顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球の5系統の血液細胞)を供給しています。このような特徴は、造血幹細胞の自己複製能(分裂により自己と同じ細胞を作り出せる能力)・多分化能(5系統すべての血液細胞に成熟できる能力)と呼ばれています。従来の血液学の学説では、この自己複製能力は造血幹細胞の特徴的な能力で、その造血幹細胞が自己複製能力を失い、徐々に赤血球・血小板・白血球等の成熟血液細胞を産生すると考えられてきました。しかしながらこれまでの研究では顆粒球やリンパ球の解析が中心で、核を持たない赤血球や血小板については顆粒球やリンパ球と同時に体内で解析したものではなく、従来の学説は必ずしも実験的に証明されているものではありませんでした。
今回、本研究グループは、赤血球、血小板を含む5系統すべての血液細胞において蛍光色素クサビラオレンジを発現するマウスを作成し、骨髄中の血液細胞の分化能力を詳細に解析した結果、造血幹細胞以外にも自己複製能をもつ骨髄球系前駆細胞が存在することを見いだしました。また、この骨髄球系前駆細胞は、これまでの学説と異なり、造血幹細胞から直接産生されていることを初めて明らかにしました。
本研究により、造血幹細胞の新しい分化モデルが明らかになり、造血幹細胞や他の血液細胞の増幅技術の開発、白血病等の血液疾患の病態の解明や治療法の開発に貢献することが期待されます。
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論文情報
Ryo Yamamoto, Yohei Morita, Jun Ooehara, Sanae Hamanaka, Masafumi Onodera, Karl Lenhard Rudolph, Hideo Ema, Hiromitsu Nakauchi,
“Clonal analysis unveils self-renewing lineage-restricted progenitors generated directly from hematopoietic stem cells”,
Cell Online Edition: 2013/8/30 (Japan time), doi: 10.1016/j.cell.2013.08.007.
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