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インフルエンザウイルス感染による炎症反応のメカニズムを解明 -新しいワクチンや抗炎症薬の開発に期待-

掲載日:2013年10月25日

東京大学医科学研究所の一戸猛志准教授らは、インフルエンザウイルスが感染した際の炎症反応が起こる分子メカニズムを明らかにしました。

© Takeshi Ichinohe, インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞質中のNLRP3が活性化して、ミトコンドリア外膜に存在するmitofusin 2(Mfn2)に結合する。これによりアダプタータンパク質のASCと未成熟型カスパーゼ1が集合して、NLRP3インフラマソームが形成される。これにより活性化したカスパーゼ1は、細胞質中の未成熟型のサイトカイン(インターロイキン1β、インターロイキン18)を切断して、サイトカインの細胞外への分泌を促進する。

目には見えない小さなゴミが鼻の穴に入っても熱は出ませんが、インフルエンザウイルスが鼻腔粘膜の細胞に感染すると熱が出ます。これは鼻の穴の細胞がインフルエンザウイルスの侵入を感知しているからです。このように私たちのからだ(細胞)は、目にも見えない小さな“ゴミ”と“ウイルス”の違いを見分けています。研究グループはこれまでに、インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞内のタンパク質の複合体であるNLRP3インフラマソームが活性化して炎症反応を引き起こすこと、この炎症反応はインフルエンザウイルス特有の免疫応答の誘導に必要であることを明らかにしてきました。しかしウイルス感染によって、細胞内のNLRP3インフラマソームがどのように活性化するか、その分子機構はよく分かっていませんでした。 今回研究グループは、インフルエンザウイルスが感染すると細胞内のNLRP3が、エネルギーを産生する細胞小器官ミトコンドリアの外膜タンパク質であるmitofusin 2(Mfn2)に結合することを世界で初めて明らかにしました。このNLRP3とMfn2の結合は、インフルエンザウイルス感染によるNLRP3インフラマソームの活性化と炎症誘発性サイトカイン(インターロイキン1β)の産生に必要でした。

今回明らかになった炎症反応の分子メカニズムは、ウイルス感染後の過剰な炎症を抑えるような治療薬の開発、または炎症を起こさせることによりインフルエンザワクチンの効果を高めるような物質(アジュバント)の開発に役立つと期待されます。またNLPR3インフラマソームは、ウイルス感染症のみならず、アスベストによる肺線維症や肺がん、過食によって体内に蓄積した尿酸結晶が引き起こす痛風にも関わることが知られているため、本研究の成果は他の分野にも大きなインパクトを与える重要な発見です。

本研究成果は、九州大学との共同研究によるもので、米国東部夏時間2013年10月14日に米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America: PNAS)のオンライン速報版で公開されました。

プレスリリース [pdf]

論文情報

Takeshi Ichinohe, Tatsuya Yamazaki, Takumi Koshiba, Yusuke Yanagi,
“Mitochondrial protein mitofusin 2 is required for NLRP3 inflammasome activation after RNA virus infection”,
Proceedings of the National Academy of Sciences
Online Edition: 2013/10/14 (Japan time), doi: 10.1073/pnas.1312571110.
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