量子極限状態における励起子のBCS的状態の可能性 グラファイトが強磁場下で示す新奇電子相
東京大学大学院理学系研究科の秋葉和人大学院生らは東京理科大学の矢口宏教授と共同で、炭素原子が蜂の巣格子状に並んだグラファイトに強い磁場を加えると、正の電荷と負の電荷が対を形成して超伝導と類似した状態が生じる可能性を示しました。
一般に物質中を電気が流れると熱エネルギーとして失われることが知られています。超伝導現象では、負の電荷を持った電子が対を組んだ量子状態を形成して電気抵抗がゼロになることによって、エネルギーの損失なく電流が物質中を流れます。しかし、理論的には、互いに逆符号の電荷を持つ粒子が対を作ることにより、超伝導的状態(励起子のBCS的状態)が生じることも可能と考えられており、その実現に向けて半世紀近い間さまざまな研究がなされてきました。
今回、共同研究グループは、東京大学物性研究所で開発されたパルスマグネットを用いることで世界最高峰の強い磁場をグラファイトに加えて、グラファイトの電気的、磁気的性質の変化を詳細に調べました。その結果、53テスラ以上の磁場下におかれたグラファイトでは、励起子のBCS的状態が現れる可能性を示唆する観測結果を得ました。
電子対による超伝導現象はMRI、超伝導リニアや電力輸送など、社会的にも広く応用されている、またはされつつあります。今回新たに示唆された励起子の超伝導的状態について、その物理的性質はまだ謎に包まれています。本成果を受けて、その解明に向けた研究の発展が期待されます。
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論文情報
Possible Excitonic Phase of Graphite in the Quantum Limit State", Journal of the Physical Society of Japan 84 (2015) 054709, doi:10.7566/JPSJ.84.054709.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)