地球観測衛星で最高の周波数利用効率を達成 小型衛星における伝送速度の世界記録を更新


超小型衛星ほどよし4号からの64APSK変調信号を地上で受信し復調した振幅と位相の平面図
約600 kmの高度の超小型衛星「ほどよし4号」からデータを送信し、JAXA宇宙科学研究所で受信した信号を表した図。信号の振幅を半径に、位相を横軸からの位相角をプロットしている。カラーコードは、通信の発生頻度を表し、赤ほど発生頻度が高いこと示し、本図から送信データが誤りなく復元できている様子がわかる。
© 2016 齋藤 宏文
東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授と宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の齋藤宏文教授のグループは、地球観測衛星として最も周波数利用効率の高い64値振幅位相変調(64APSK)方式を世界で初めて使用し、超小型衛星「ほどよし4号」と地上との間で、毎秒505メガビットという、100 kg以下の小型衛星としては世界最高速の通信に成功しました。
近年の地球観測衛星は高分解能のカメラやレーダを搭載しているため、数十cmの物体まで見分けられる能力を持っています。このような観測データを地上に伝送するためには、高速な伝送回線が必要です。しかし、電波の周波数帯域幅は限られており、観測データの伝送の高速化のためには、周波数帯域幅を効率よく利用する技術の開発が課題です。
電波を使ってデジタルデータを送信する場合、電波の位相(周波数)と振幅の組み合わせそれぞれに情報(この場合ビット)を割り当て、受信時にどの位相と振幅の組み合わせが送信されたかを推定することで送信されたデータを復元します。周波数帯域幅を効率よく利用する技術の候補として、64値振幅位相変調方式が有力視されています。この方式では、位相と振幅の組み合わせが64あり、それぞれに対して6ビットの情報を割り当てることができるため、従来に比べて1.5倍から2倍の周波数利用効率が期待されています。しかし、本方式はノイズに弱く、地球観測衛星への搭載が試されたことはありませんでした。
今回、研究グループは、地球観測衛星として世界最高の周波数利用効率を持つ64値振幅位相変調を用いた通信システムを開発しました。そして、この通信システムを中須賀教授らのグループが開発したわずか64kgの超小型衛星「ほどよし4号」に用いました。その結果、「ほどよし4号」から毎秒505メガビットの速度でデータを送信し、直径3.8 mのJAXA宇宙科学研究所相模原キャンパスのアンテナ受信設備でデータを誤りなく受信することに成功しました。
「私たちは2015年の2月に超小型衛星を用いて、毎秒348メガビットのデータ転送に成功していますが、今回の成果はそれをさらに上回る世界最高記録です」と齋藤教授は話します。「今回は、利用可能な周波数帯域のうち125MHzしか使用しませんでした。使用可能な全帯域を用いれば、原理的には最大毎秒3000メガビットという超高速のデータ通信ができると考えています。小型衛星を多数機打ち上げて、準リアルタイムで地球の画像や動画を撮像して地上に伝送する構想に、本技術のような高速データ伝送は必要不可欠になるでしょう」と次の段階の抱負を語っています。
論文情報
Experiments of 505 Mbps Downlink with 64APSK Modulation from 50-kg Class Satellite", 59th Space Sciences and Technology Conference Oct.7-9, 2015, 1H17
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