ARTICLES

English

印刷

超伝導の効果を妨げる磁性を排除した高温超伝導状態を観測 高温超伝導の物理の根幹に見直しを迫る

掲載日:2016年3月15日

© 2016 Masafumi Horio.(上)還元アニール処理を行う前の試料のフェルミ面(電子の等エネルギー面)(左)と矢印に沿ったバンド分散(右)。反強磁性に起因して電子状態の存在しないエネルギー領域(バンドギャップ)が生じている。(下)還元アニールを施した試料のフェルミ面(左)と矢印に沿ったバンド分散(右)。バンドギャップが消失し、反強磁性の効果が排除されている。

今回新たに施した還元アニール処理による電子状態の変化
(上)還元アニール処理を行う前の試料のフェルミ面(電子の等エネルギー面)(左)と矢印に沿ったバンド分散(右)。反強磁性に起因して電子状態の存在しないエネルギー領域(バンドギャップ)が生じている。(下)還元アニールを施した試料のフェルミ面(左)と矢印に沿ったバンド分散(右)。バンドギャップが消失し、反強磁性の効果が排除されている。
© 2016 Masafumi Horio.

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の藤森淳教授と堀尾眞史大学院生らを中心とする研究グループは、不純物となる酸素を取り除くための処理を施すことにより、銅酸化物高温超伝導体から磁性を排除し、これまで考えられていたよりも広い電子濃度領域で、かつより高い温度でも生じることを明らかにしました。

電気エネルギーが熱エネルギーとして失われることなく物質中を流れる現象があります。これを超伝導と呼び、私たちの身の回りではリニアモーターカー、磁気共鳴イメージング装置等に用いられています。超伝導を示す物質には、銅酸化物高温超伝導体と呼ばれる物質群があります。これらの物質は超伝導現象を示すものの超伝導現象の発生のさせ方によってその性質が異なります。具体的には、電気を全く通さない絶縁体の物質に負の電荷をもつ電子を加えて超伝導を発生させるか、あるいは、正の電荷をもつ正孔を加えて超伝導が発生させるかによって異なります。特に、電子を加えて超伝導を発生させた場合には、不純物となる酸素が超伝導体の結晶に取り込まれやすいため、反強磁性と呼ばれる、超伝導を妨げる磁性の一種を安定させると考えられてきました。

今回、研究グループは、電子を加えて銅酸化物高温超伝導体を作り出す方法に還元アニール処理と呼ばれる、不純物の酸素を取り除くための熱処理を施しました。そして、このような方法で作られた銅酸化物高温超伝導体の電子状態を直接観測しました。その結果、十分な還元アニール処理を施すことによって反強磁性が排除され、より安定した高温超伝導状態が広い電子濃度領域で実現されること、また、従来よりも高い温度で超伝導状態を示すことがわかりました。

「今回の成果は、不純物によって誘起された反強磁性が超伝導に与える影響について、これまでの物理学の根幹部分の認識を覆し、実験的・理論的な再検討を促すものです」と藤森教授は話します。「銅酸化物高温超伝導体が発見されて以来30年以上も経ちました。しかし、高温超伝導が発現する機構は未だにわかっていません。今回の成果が、高温超伝導発現機構の研究を新しい方向に導く可能性が期待されます」と続けます。

なお、本研究は上智大学理工学部機能創造理工学科の足立匡准教授、東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の小池洋二教授と高エネルギー加速器研究機構(KEK)とともに行いました。

プレスリリース

論文情報

M. Horio, T. Adachi, Y. Mori, A. Takahashi, T. Yoshida, H. Suzuki, , "Suppression of the antiferromagnetic pseudogap in the electron-doped high-temperature superconductor by protect annealing", Nature Communications Online Edition: 2016/02/04 (Japan time), doi:10.1038/ncomms10567.
論文へのリンク(掲載誌

関連リンク

大学院理学系研究科

大学院理学系研究科 物理学専攻

大学院理学系研究科 物理学専攻 藤森研究室

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる