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加速する現代社会の「自然離れ」 自然と関わらなくなることの何が問題なのか?

掲載日:2016年3月17日

© 2016 曽我 昌史自然と接する「経験の消失」は私達の健康や生活の質を劣化させるだけでなく、社会の自然に対する興味や関心、保全意識を大きく低下させます(矢印A)。こうした自然に対する関心や保全意識の低下は、自然と接する機会や意欲の更なる減少につながる恐れがあり(矢印B)、社会の自然離れには負の連鎖が存在することが予想されます(矢印C)。

社会の自然離れが進む概念図
自然と接する「経験の消失」は私達の健康や生活の質を劣化させるだけでなく、社会の自然に対する興味や関心、保全意識を大きく低下させます(矢印A)。こうした自然に対する関心や保全意識の低下は、自然と接する機会や意欲の更なる減少につながる恐れがあり(矢印B)、社会の自然離れには負の連鎖が存在することが予想されます(矢印C)。
© 2016 曽我 昌史

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻環境システム研究室の曽我昌史博士らの研究グループは、世界中の自然体験に関する研究報告・データを集め、現在多くの先進国で社会の“自然離れ”が急速に進んでいること、またこうした現代社会に蔓延する自然離れは、今後、健康や文化、教育など様々な面で深刻な負の影響を及ぼす恐れがあることを明らかにしました。

急速な都市化や娯楽の変化に伴い、私たちが自然と接する機会は減少の一途を辿っています。国立青少年教育振興機構が2010年に全国の小中高生を対象に行った調査によれば、山登りや木登り、昆虫採集などの自然体験をしたことがない子供の割合が、10年間で大幅に増加していることが明らかとなっています。こうした自然と接する「経験の消失」(自然離れ)は、英国や米国、中国など多くの先進国でも報告されており、健康や文化、教育等の面から大きな社会問題としてまた環境破壊に歯止めをかける上での根本的な障害のひとつとして認識されています。しかしながら、経験の消失が起きる背景やその長期的な影響等ははっきりと分かっていません。

研究グループは、環境心理、公衆衛生、保全生態学など多岐にわたる学術分野の研究報告を体系化し、自然と接する「経験の消失」が社会にもたらす負の影響やその原因等を整理しました。その結果、(1)現在多くの国で経験の消失が進んでいること、(2)経験の消失は人々の健康や生活の質を害するだけではなく、自然に対する興味や関心、保全意識を大きく衰退させること、(3)経験の消失には負の連鎖(悪循環)が存在し、現状のままでは社会の自然離れが今後もより一層と進んでいく恐れがあることを示しました。

「人と自然の接点という観点から見れば、市街地にある緑地や野生生物は極めて重要な役割を担っています」と曽我博士は言います。「しかし残念なことに、未だに多くの人々がそうした都市の自然を必需品ではなく嗜好品として捉えています。今後、自然と接することの重要性をより多くの人々へ周知していく必要があると考えています」と続けます。

論文情報

Masashi Soga, Kevin J Gaston, "Extinction of experience: the loss of human-nature interactions", Frontiers in Ecology and the Environment Vol. 14, No. 2, p. 94–101: 2016/03/03 (Japan time), doi:10.1002/fee.1225.
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