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安価な鉄触媒と温和な条件下で窒素ガスの還元に成功! 窒素ガスから触媒的なアンモニアとヒドラジンを合成

掲載日:2016年7月20日

© 2016 西林 仁昭

鉄窒素錯体による窒素ガスからのアンモニア及びヒドラジン合成
© 2016 西林 仁昭

東京大学大学院工学系研究科の西林仁昭教授らの研究グループは、窒素分子と結合した(配位)鉄窒素錯体を新しく設計・合成し、それを触媒として用いて常圧の窒素ガスを直接アンモニアへと変換することに成功しました。さらに本触媒を用いて窒素ガスから燃料としても用いられるヒドラジンが生成できるというこれまでに例がない反応を見出しました。

窒素は核酸やアミノ酸、タンパク質に含まれ、生命を構成する上で必須の元素です。しかし、大気中の窒素ガスは反応に乏しく、私たちは直接窒素源として利用できません。そのため、現在、窒素源としてアンモニアが工業的に合成されています(ハーバー・ボッシュ法)。この手法は、高温 (300~500 ˚C)・高圧 (200~300 気圧)の反応条件を必要とし、多量のエネルギーを消費するため、より温和な反応条件下で窒素分子をアンモニアへと変換する合成法が求められています。

一方自然界では、窒素固定酵素ニトロゲナーゼが常温常圧という極めて温和な反応条件下で窒素ガスをアンモニアへと変換しています。この酵素の活性を担う構造も明らかにされているため、本酵素をモデルにした金属錯体や窒素錯体による窒素固定法の研究開発が盛んです。研究グループもこれまでに窒素架橋二核モリブデン錯体を触媒として、常温常圧の極めて温和な反応条件下で窒素ガスからアンモニアを合成する反応に成功しています。しかし、この触媒に用いたモリブデンは安価ですが希少金属(レアメタル)であり、より安価で地球上で豊富に存在する金属を利用した触媒の開発が望まれていました。

今回研究グループは、九州大学先導物質化学研究所の吉澤一成教授らの研究グループとともに、ニトロゲナーゼの活性中心にも見られる鉄に注目し、モリブデン触媒よりも安価な鉄触媒を開発しました。この触媒は、負の電荷を持つPNP 型ピンサー配位子(ピロールと2つのホスフィンを組み合わせた三座配位子)を備えた鉄窒素錯体です。この触媒を用いると極めて温和な反応条件下で触媒的にアンモニアが生成できます。さらに、混合する溶媒を変えるとヒドラジンが生成できました。

窒素錯体を用いて窒素ガスから触媒的にヒドラジンが生成する反応は世界で初めて実現した例であり、新たな種類の窒素固定触媒開発の指針となる重要な結果です。本法はハーバー・ボッシュ法に代わり得る、潜在能力の極めて高い次世代型の窒素固定法開発を推し進めるために重要であり、省エネルギープロセス開発に向けて大いに期待できます。また、常温常圧の反応条件下で窒素ガスからアンモニアを合成する窒素固定酵素ニトロゲナーゼの未解明な反応機構に関して、極めて重要な知見を与える研究成果でもあります。

「当時大学院生の栗山君をはじめとする私たちの研究グループは、新しく開発した鉄触媒を用いて、窒素ガスからアンモニアだけではなく、燃料としても利用可能で付加価値の高いヒドラジンも直接的に温和な条件下で合成することに成功しました」と西林教授は話します。「これは、自然界の窒素固定酵素ニトロゲナーゼを模倣することで達成できました。栗山君らの尽力無くては達成できなかったものです。」と続けます。

論文情報

Shogo Kuriyama, Kazuya Arashiba, Kazunari Nakajima, Yuki Matsuo, Hiromasa Tanaka, Kazuyuki Ishii, Kazunari Yoshizawa, Yoshiaki Nishibayashi, "Catalytic transformation of dinitrogen into ammonia and hydrazine by iron-dinitrogen complexes bearing pincer ligand", Nature Communications Online Edition: 2016/07/20 (Japan time), doi:10.1038/ncomms12181.
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