肥満によって感染が重症化する仕組み アディポネクチンが感染を防ぐ白血球の増殖を高める
東京大学大学院医学系研究科血液・腫瘍病態学の黒川峰夫教授と正本庸介助教らの研究グループは、肥満なマウスで細菌感染が重症化するメカニズムは脂肪細胞から分泌されるホルモン「アディポネクチン」の不足によって、骨髄で白血球の一種である顆粒球の増殖に異常が生じる結果であり、アディポネクチンを補充する治療によって感染の重症化が抑えられることを発見しました。
肥満症は頻度が非常に高く多彩な合併症をもたらすことから、公衆衛生上、非常に大きな問題となっています。また、肥満症により様々な感染症が重症化しやすくなることが知られていますが、そのメカニズムには不明な点が多く残っていました。
今回、研究グループは脂肪の高い餌を与えることによって肥満の症状を生じたマウス群と通常の餌を与えられたマウス群では、血液を作る(造血)組織、骨髄において脂肪細胞の異常によりアディポネクチンの産生が低下していることを発見しました。さらなる解析によって、アディポネクチンの低下によって、骨髄マクロファージから炎症性サイトカインTNFが多く分泌されて造血前駆細胞が炎症性のサイトカイン環境に暴露される結果、サイトカインシグナル抑制因子SOCS3の発現が上昇し、感染などの緊急時に造血前駆細胞がサイトカインに応答して適切に増殖できなくなり、感染が重症化することを示しました。加えて、この症状はアディポネクチンを肥満マウスに与えることによって改善することを明らかにしました。
本成果は、肥満に伴う代謝異常と造血・免疫異常の関連を、マウスを用いて分子レベルで明らかにした点で、大変重要なものです。
「私たちの研究から、肥満症では感染を防ぐための造血機構が十分に機能しないことがわかりました」と正本助教は話します。「また、アディポネクチンの作用が不足することによって、造血の異常が起きることが明らかになり、新しい治療法の開発にもつながると期待しています」と続けます。
なお本成果は、同研究科代謝・栄養病態学(糖尿病・代謝内科)門脇孝教授の研究グループ、ならびに東京理科大学、慶應義塾大学との共同研究によって得られたものです。
論文情報
Adiponectin Enhances Antibacterial Activity of Hematopoietic Cells by Suppressing Bone Marrow Inflammation", Immunity Online Edition: 2016/06/15 (Japan time), doi:10.1016/j.immuni.2016.05.010.
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