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一つの成分からなる物質で四つの相が共存 相の変化を操る

掲載日:2016年8月25日

© 2016 Hajime Tanaka.赤い■で示した点が3つの結晶相(dc, β-tin, sc16)と液体層が共存する温度と圧力。

3つの結晶相と液体相の四重点を含む温度・圧力相図含む温度・圧力相図
赤い■で示した点が3つの結晶相(dc, β-tin, sc16)と液体層が共存する温度と圧力。
© 2016 Hajime Tanaka.

東京大学生産技術研究所の田中肇教授らの研究グループは、一つの成分からなる物質においては四つ以上の相は熱平衡状態では共存できないという熱力学の法則(「ギブスの相律」)に反し、四つの相が共存し得る場合があることをシミュレーションにより明らかにしました。この成果は、相が共存する現象の基礎的な理解に資するだけでなく、相の変化を用いた機能材料の開発にも役立つと期待されます。

気体、液体、固体といった複数の相が共存する現象は、日常的にもよく目にします。たとえば、夏の風物詩のかき氷では、液体の水と固体の氷が共存しています。そして、水分子には気体、液体、固体の三つの相が共存する特定の温度と圧力(三重点)が存在することも知られています。一般に、一つの成分からなる物質では、四つ以上の相は熱平衡状態において共存できないと考えられており、「ギブスの相律」として呼ばれています。つまり、一つの成分からなる物質では、共存可能な相の数は最大3つと考えられていました。しかし、数学的には、特殊な条件下で、四相共存も実現可能な場合があります。

研究グループは、シリコン(Si)の振る舞いを記述する相互作用(ハミルトニアン)に新たな変数(自由度)を導入して計算することにより、3つの結晶相と一つの液体相が共存する四相共存が可能であることを示しました。加えて、4つの相が共存する特定の温度と圧力(四重点)を系統的に見出し、この点の周りでの1つの相から別の相へと変化する様子(相転移挙動)を明らかにしました。

この成果は、熱平衡状態における相の共存の基礎的理解を深めるとともに、四重点の近くでは微小な外部からの擾乱(摂動)により多相間の相転移を操れるという特徴から、相変化を用いた機能材料の開発にも役立つ可能性があると期待されます。

「熱平衡状態で複数の相が共存するためには、その化学ポテンシャルが等しくなくてはならず、この条件からギブスの相律が導かれることを熱力学で学びます。しかし、この相律には特殊な解が存在することは通常教わりません。今回の研究は、通常、物質固有と考えられる相互作用ポテンシャルを変化させる方法で、この特殊な場合を系統的に探せることを示しました」と田中教授は話します。「このような条件が実際に実現され、相制御に生かされる日が近い将来来ればと思います」と続けます。

論文情報

Kenji Akahane, John Russo, and Hajime Tanaka, "A possible four-phase coexistence in a single-component system", Nature Communications (2016) Online Edition: 2016/08/25 (Japan time), doi:10.1038/NCOMMS12599.
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大学院工学系研究科 物理工学専攻

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