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天然のダイオードタンパク質 電子が金属酸化物の還元に関わるタンパク質内を移動する新たな経路

掲載日:2017年4月28日

© 2017 渡邉 宙志タンパク質に結合したヘムと呼ばれる鉄を含んだ10の分子の間を電子が移動する。各ヘムの酸化還元電位を模式的に表しており(黄色)、電位に沿って電子は高い方から低い方へと流れやすい。

タンパク質MtrF内における電子の移動経路のイメージ図
タンパク質に結合したヘムと呼ばれる鉄を含んだ10の分子の間を電子が移動する。各ヘムの酸化還元電位を模式的に表しており(黄色)、電位に沿って電子は高い方から低い方へと流れやすい。
© 2017 渡邉 宙志

東京大学先端科学技術研究センターの石北央教授と渡邉宙志助教らの研究グループは、細菌などが酸素のない環境でエネルギーを作り出す(嫌気呼吸)ために用いているタンパク質(MtrF:外膜のマルチヘムシトクロム )の構造をシミュレーションにより解明し、このタンパク質内でどのように電子が輸送されているか、その一端を示しました。

人間を含む多くの生物は、呼吸をする際に酸素に電子を渡す(還元する)ことで生命活動に必要なエネルギー(ATP)を生み出しています。しかし、酸素のない環境で生きる細菌の中には、鉱物中の金属酸化に電子を渡すことでエネルギーを確保しているものがいます。つまり、これらの細菌は細胞の内部から細胞外の金属酸化物まで電子を長距離に輸送しています。この電子の輸送にはさまざまなタンパク質が関わっていることが報告されており、その中でも近年、この長距離な電子の輸送に関連するタンパク質の一つであるMtrF(外膜のマルチヘムシトクロム)の分子構造が明らかになっています。MtrFの構造をもとに電子の移動経路が推測されていますが、詳細なメカニズムは未だ分かっていません。

研究グループは、これまで発表されていたMtrFの構造の一部に誤りがあることを発見し、スーパーコンピュータを用いて正確な構造を計算しました。その結果、今まで考えられていたものとは異なる新しい電子の移動経路を発見しました。また、そのタンパク質は、緻密なメカニズムによって効率的に電子を移動させていることが明らかになりました。

「MtrFにはヘムとよばれる鉄を持った分子が10個埋め込まれて、タンパク質の端から端まで電子を流す、電子の移動経路があります。これはまさに天然の電子デバイスともいえるので、MtrFがどのような特性を持っているのだろうとわくわくしました!」と石北教授は話します。「電子移動経路の見た目の形状は対称的ですが回の研究により、条件によってその経路を電子はあたかもダイオードのように方向性を持って移動しやすいことが明らかになりました」と続けます。
 

論文情報

Hiroshi C. Watanabe, Yuki Yamashita, Hiroshi Ishikita, "Electron transfer pathways in a multiheme cytochrome MtrF", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United State of America Online Edition: 2017/03/06 (Japan time), doi:10.1073/pnas.1617615114.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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