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発病の予兆を早期に検知する ラットにおける疾病のダイナミクスと状態遷移の解明

掲載日:2017年11月10日

© 2017 Catarina Luis, Ikuhiro Yamaguchi, Yoshiharu Yamamoto.左側は、生体システムの状態が、アルコール遮断前の安定な状態(青)から遮断中の不安定な状態(オレンジ)を経て、遮断後の過剰摂取状態(赤)に遷移する様子を表します。右側は、それに伴って自発活動の概日リズムが、安定→不安定→安定と変化する様子を表します。

ラットにおけるアルコール依存状態への動的状態遷移
左側は、生体システムの状態が、アルコール遮断前の安定な状態(青)から遮断中の不安定な状態(オレンジ)を経て、遮断後の過剰摂取状態(赤)に遷移する様子を表します。右側は、それに伴って自発活動の概日リズムが、安定→不安定→安定と変化する様子を表します。
© 2017 Catarina Luis, Ikuhiro Yamaguchi, Yoshiharu Yamamoto.

東京大学大学院教育学研究科の山本義春教授、Jerome Foo(ジェローム・フー)研究員らの共同研究グループは、発病に至る生体の状態遷移(健康状態の動的な変化)の早期の予兆を、げっ歯類(ラット)を用いて、初めて明らかにしました。

発病を生体の内部状態の動的な遷移過程と捉える「動的疾患」という考え方、およびそれに基づく疾病のダイナミクスの研究が、発病や疾患段階の変化の予測を可能とするのではないかと注目されています。しかし、実際にそうした予測をできるような密なデータの解析、およびその技法の開発は、未だ発展途上でした。

研究グループは、発病のモデルとして、動物(ラット)が自由にアルコールを摂取できる状態から、一旦アルコールの摂取を遮断した後、再び自由に摂取できるようにすると、アルコールの過剰摂取(依存状態)が起こるという「アルコール遮断効果」を用いました。

研究者らは14週間(8週間自由摂取の後2週間遮断し4週間再び自由摂取)に渡って、アルコール摂取および自発的身体活動の長期連続的かつ高解像度な「強縦断データ」を収集し、マルチスケールの計算論的方法で解析することにより、過剰摂取状態への遷移に先立って、遮断期第1週に、摂取パターン及び自発活動の約24時間周期の概日リズムの不安定化や超日周期リズム(数時間周期のゆっくりとした日内変動)の増加といった、早期の予兆と考えられる現象が起こることを見出しました。

この発見は、ウェアラブル/モバイル機器によって生体・行動シグナルを計測・記録する技術が急速に発展し、それらの「強縦断データ」を大量に収集することが可能となってきた今日において、極めて大きな意義を持ちます。すなわち、そのようにして収集した強縦断データに、今回の研究で開発されたような手法を適用していくことで、ヒトの発病・疾患段階の変化を予測し、予防に役立てる道が開かれると期待されます。

「私達のアプローチによって、発病を生体の内部状態の動的遷移と捉える生物医学・生物物理学の研究は新たな一歩を踏み出せると考えています」と山本教授は話します。さらに、「このように強縦断データを精力的に解析していくことで、IoT(モノのインターネット)時代の新たな予測医療・ヘルスケアを生み出すと確信しています」と続けます。

なお、本成果はドイツ・マックスプランク研究所およびドイツ・中央精神衛生研究所との共同研究により得られたものです。

論文情報

Jerome Clifford Foo, Hamid Reza Noori, Ikuhiro Yamaguchi, Valentina Vengeliene, Alejandro Cosa-Linan, Toru Nakamura, Kenji Morita, Rainer Spanagel, Yoshiharu Yamamoto, "Dynamical state transitions into addictive behavior and their early-warning signals ", Proceedings of the Royal Society B Online Edition: 2017/08/02 (Japan time), doi:10.1098/rspb.2017.0882.
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