量子を数える 量子コンピュータの要素技術を応用してマイクロ波の量子的振る舞いを定量化


ハイブリッド量子技術を用いた量子センサーの概略図
伝搬するマイクロ波光子の数を直接観測することは困難です。本研究では、超伝導量子ビット素子を用いて、伝搬するマイクロ波光子数分布を計測しました。
© 2017 中村 泰信
東京大学先端科学技術研究センターの中村泰信教授および田渕豊助教らの研究グループは、理化学研究所創発物性科学研究センターとの共同研究により、磁石の中に生じた集団スピン運動のエネルギー量子である「マグノン」の数を一個単位で観測することに世界で初めて成功しました。
これまで磁石(強磁性体)中の集団スピン運動を単一量子レベルで定量的に評価する技術はありませんでした。研究グループは量子コンピュータの要素技術として注目されている超伝導回路上の量子ビット素子(量子情報の最小単位)を超高感度な検出器として用い、球状の強磁性体単結晶試料中に励起されたマグノンを計数し、その分布を明らかにしました。同様の技術を用いて中村教授および東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の河野信吾大学院生らの研究グループは、導波路中を伝搬するマイクロ波光子も計数し、その量子力学的な分布を観測することに成功しました。
この研究成果により、超伝導量子ビット素子とマグノンを量子力学的な状態を保ったまま組み合わせるハイブリッド量子技術を用いることで、超伝導量子ビット素子が物質の量子力学的な振る舞いに対する新しい検出器となりうることを示しました。今後、超伝導量子ビット素子を他の物理系と融合させたハイブリッド量子系を実現することにより新しいセンサー技術の開発への応用が期待され、量子コンピュータ、量子通信、量子暗号など量子情報処理技術の深化につながると考えています。
「今回確立した技術は、超伝導量子回路上の量子ビット素子を用いたハイブリッド量子系の量子センサーという応用先を開拓しました」と中村教授は話します。「同様の技術を用いて、回路上を伝搬するマイクロ波光子数の分布を計測することにも成功しました」と続けます。また、「超伝導量子ビット素子と様々な物理系とが融合したハイブリッド量子技術の発展のためにも、より一層量子コンピュータの研究開発に力が入ります」と田渕助教は期待を寄せます。
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論文情報
Nonclassical Photon Number Distribution in a Superconducting Cavity under a Squeezed Drive", Physical Review Letters Online Edition: 2017/07/13 (Japan time), doi:10.1103/PhysRevLett.119.023602.
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