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結晶ゲルはどのようにして形成されるか? 共通のメカニズムが冷たい雨の起源の解明にも

掲載日:2017年11月28日

© 2017 鶴沢英世、John Russo、Mathieu Leocmach、田中肇結晶ゲルを構成する個々のコロイド粒子を滑らかな関数(ガウス場)で置き換えることでネットワーク構造の特徴を見やすくした。

結晶ゲルの三次元構造
結晶ゲルを構成する個々のコロイド粒子を滑らかな関数(ガウス場)で置き換えることでネットワーク構造の特徴を見やすくした。
© 2017 鶴沢英世、John Russo、Mathieu Leocmach、田中肇

東京大学生産技術研究所の田中肇教授、鶴沢英世大学院生(当時)、John Russo(ジョン・ルッソ)特任助教(当時、現:英国ブリストル大学講師)、フランスのリヨン大学のMathieu Leocmach(マチュー・レオクマック)博士の研究グループは、液体中に均一に分散したコロイド(2ミクロン程度の固体粒子)が、コロイド間の引力により凝集し結晶ネットワークを作る「結晶ゲル」形成の素過程を、共焦点レーザ顕微鏡による一粒子レベル分解能での実時間3次元観察により明らかにしました。

通常のコロイドゲルは、コロイドがランダムな構造のまま凝集して固まった状態ですが、ある条件下において、結晶がつながりあったゲル状態が形成されることが知られていました。しかしながら、どのような条件下で、また、どのような機構でそのような特異な状態が実現されるのかは未解明でした。

研究グループは、この動的な過程を微視的レベルで直接観察することに初めて成功し、その結果、まずコロイドの濃度が高い液体相と濃度の低い気体相に相分離する過程で液体相のネットワークが形成され、その中に結晶核が形成されること、そして、それが成長して液体ネットワークの表面に達し気体相と接触すると、液体相と固体相の飽和水蒸気圧に差があるために、液体相が蒸発し、同時に、気体相の粒子が結晶表面に凝結するという過程が重要となることを発見しました。この過程は、過冷却水と氷晶の混合体を含む雲において、氷晶が急速に成長する過程(ベルゲロン過程)と同じであり、冷たい雨の形成の素過程を微視的レベルで観察した初めての例ということができます。このようにして形成された結晶ゲルは、上記の形成過程を反映して滑らかな結晶表面を持っており、また、多孔体を形成し、表面積が極めて大きいため、もし金属原子などでこのような構造が形成されれば、応用上のインパクトも大きいと考えられます。

研究グループは、どのような条件が満たされれば、この過程を実現できるかについての物理的指針も与えました。これまで、このような結晶からなる多孔体は、2成分からなる系を相分離させたのち、一つの相を溶かして取り除くという2段階の過程で形成されていましたが、今回提案された方法を用いると、一段階で多孔体を形成できる可能性があり、今後の応用が期待されます。

「これまで、結晶ゲルという状態がどのようにして形成されるのかについては、十分な理解がされていませんでした。今回の研究は、結晶ゲルの中心的な機構が、雲の中で起きる氷晶形成過程と同じ機構をもつことを示しています」と田中教授は説明します。「コロイド物理と雲や雨の科学という一見関係のない分野に共通のメカニズムが存在しているところに、自然界が物理法則に支配されているというロマンを感じます」と話します。

プレスリリース

論文情報

Hideyo Tsurusawa, John Russo, Mathieu Leocmach, and Hajime Tanaka, "Formation of porous crystals via viscoelastic phase separation", Nature Materials Online Edition: 2017/08/01 (Japan time), doi:10.1038/nmat4945 .
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