生体膜リン脂質による細胞増殖活性化機構 ホスファチジルセリンによる転写共役因子YAPの活性化


リサイクリングエンドソームのホスファチジルセリンはYAPの活性化を制御する
細胞膜から取り込まれた物質を細胞膜へ送り返すために必要な細胞小器官であるリサイクリングエンドソーム(RE)に存在するホスファチジルセリン(PS)をフリップ(リン脂質二重層から構成されている生体膜の脂質が外層から内層へ移動)するATP8A1酵素はLats1という酵素の活性化を抑制する。REに存在するPS結合タンパク質evectin-2は、タンパク質にユビキチンと呼ばれるタンパク質を付加する酵素であるNedd4 E3リガーゼ(WWP1, WWP2)を活性化し、Lats1のユビキチン化や分解を促進する。この2つの作用による活性化Lats1の減少が、非リン酸化型転写共役因子YAPを増加させる。非リン酸化型YAPは核内で転写因子TEADを介してCTGF(結合組織増殖因子)などの細胞増殖に関わる遺伝子の発現を増強する。
© 2018 Tatsuyuki Matsudaira, Kojiro Mukai.
東京大学大学院薬学系研究科の田口特任准教授と新井洋由教授らの研究グループは、細胞の増殖を制御する特定の信号(シグナル)伝達経路が生体膜リン脂質による制御を受けることを初めて明らかにしました。本成果により今後、生体膜リン脂質を制御するタンパク質が、がん細胞の増殖を抑制する新規創薬ターゲットとなることが期待されます。
生体膜はリン脂質二重層で構成されていますが、細胞を外界と区別する障壁としての機能以外の役割に関しては不明な点が多く残されています。
今回研究グループは、特定のリン脂質の近傍にあるタンパク質を同定する新しい手法を開発し、ホスファチジルセリンというリン脂質の一種ががん細胞の増殖に関わるHippo-YAPシグナルと呼ばれる特定の伝達経路を制御することを初めて明らかにしました。
本研究によって開発したホスファチジルセリン近傍タンパク質の同定方法は他のリン脂質にも応用可能であり、本手法によって生体膜リン脂質の新たな機能が明らかになっていくことが期待されます。
「私たちは今回、生体膜を構成する特定のリン脂質の近傍にあるタンパク質を同定する新しい手法を開発し、生体膜がHippo-YAPシグナルを制御する場となることを初めて明らかにしました」と新井教授は話します。「オルガネラ(細胞小器官)脂質研究の新たな展開が期待できます」と田口准教授は今後の展望を語ります。
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論文情報
Endosomal phosphatdylserine is critical for the YAP signalling pathway in proliferating cells", Nature Communications Online Edition: 2017/11/01 (Japan time), doi:10.1038/s41467-017-01255-3.
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