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三陸のウミガメは寒冷地仕様 高い休止代謝速度と低い温度依存性によって冬季でも活動性を維持

掲載日:2018年9月20日

衛星発信機を背負ったアカウミガメの写真

衛星発信機を背負ったアカウミガメ
三陸沿岸域に来遊するアカウミガメに衛星発信機を装着して放流し、どんな行動をしているのかを調べます。
© 2018 Chihiro Kinoshita.

東京大学大気海洋研究所の木下千尋大学院生および佐藤克文教授を中心とする研究グループは、北太平洋のアカウミガメ亜成体は、高い休止代謝速度と低い温度依存性によって冬季でも活発な潜水ができることを明らかにしました。

これまでの研究で、爬虫類であるアカウミガメは、水温が下がる冬季に冬眠のような状態になり、400分を超える長時間の潜水を行うと考えられてきました。ところが、北太平洋個体群のアカウミガメ亜成体は冬季でも夏季とほとんど変わらない短時間の活発な潜水を行っていることが、最近の研究で明らかになりました。なぜ個体群によって潜水時間が違うのか、その理由は不明でした。

今回、研究グループは太平洋のアカウミガメ亜成体(13個体)の代謝速度を3つの水温下(15℃、20℃、25℃)で測定し、冬季に冬眠のような状態になる地中海のアカウミガメ亜成体の代謝速度と比較しました。その結果、北太平洋の亜成体の代謝速度は地中海よりも1.4倍から5.7倍高いことがわかり、特に低水温下で差が大きいことが明らかになりました。また、過去の研究より、アカウミガメの体温と水温の温度差は代謝速度に比例することが知られています。今回、体温も同時に測定したところ、地中海のアカウミガメ亜成体の代謝速度では北太平洋のアカウミガメ亜成体の体温を維持できないことが分かりました。つまり、北太平洋のアカウミガメ亜成体は、地中海のアカウミガメ亜成体に比べて内温性が高いと考えられました。

アカウミガメは極域を除く汎世界的な海域に生息しており、個体群によって生息している場所の水温や餌環境が異なると考えられます。それぞれの環境に合わせて、アカウミガメが体の生理状態を柔軟に変化させてきた可能性が考えられ、越冬戦略の多様性が示唆されました。

「はじめて結果をみた時、計算が間違っているのではないかと思いました。同種なのに休止代謝速度が5倍も違うという話は聞いたことがなかったからです」と佐藤克文教授は話します。「寒い時期に活発に動くことが、アカウミガメにどんなメリットをもたらすのかを今後明らかにしていきたと思います」と続けます。

論文情報

Chihiro Kinoshita, Takuya Fukuoka, Yasuaki Niizuma, Tomoko Narazaki, Katsufumi Sato, "High resting metabolic rates with low thermal dependence induce active dives in overwintering Pacific juvenile loggerhead turtles," Journal of Experimental Biology Online edition: 2018年7月9日, doi:10.1242/jeb.175836.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く, UTokyo Repository別ウィンドウで開く)

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