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加齢に伴う正常組織の遺伝子異常とがん化のメカニズムを解明 ―食道上皮は加齢に伴いがん遺伝子の変異を獲得した細胞で再構築される―

掲載日:2019年1月10日

がんは多くの先進諸国で死因の第一位を占める深刻な病気ですが、その70%は65歳以上の高齢者に発症します。
しかし、「がんがなぜ高齢者に好発するのか」については未だ十分解明が進んでいません。また、喫煙や飲酒といった生活習慣ががんの発症に関係することはよく知られていますが、これらの因子が加齢と関連してどのようにがんの発症に関わるかについても、未だ十分な解明が進んでいません。

今回、京都大学大学院医学研究科・腫瘍生物学講座 小川誠司 教授、横山顕礼 同特定助教、垣内伸之 同研究員、吉里哲一 同助教、同腫瘍薬物治療学講座 武藤学 教授および東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター 宮野悟 教授らを中心とする研究チームは、食道がんが高度の飲酒歴と喫煙歴を有する人に好発することに着目し、“一見正常”な食道に生じている遺伝子変異を、最新の遺伝子解析技術で詳細に解析することにより、がんが高齢者で発症するメカニズムの一端を解明することに成功しました。

解析の結果、驚くべきことに、我々の食道上皮は、加齢にともなって、食道がんで頻繁に認められる遺伝子の変異を獲得した細胞が徐々に増えていき、70歳を超える高齢者では全食道面積の40~80%がこうしたがん遺伝子の変異をもった細胞で置き換わることがわかりました。こうした食道上皮の異常な細胞による「再構築」は、すでに乳児の時期から始まっており、全ての健常人で例外なく認められましたが、高度の飲酒と喫煙歴のある人では、この過程が強く促進され、しかも、がんで最も高頻度に異常が認められるTP53遺伝子や染色体に異常を有する細胞の割合が顕著に増加することが明らかになりました。これらの結果は、なぜがんが高齢者に好発するのか、また、それがどのようにして飲酒や喫煙といったリスクによって促進されるのかについて、重要な手がかりを与える知見です。

「大規模ゲノムシークエンスとスーパーコンピュータが研究を加速しました」と宮野教授は話します。「がんの新たな理解が始まったことに感動しています」と続けます。

本研究成果は、2019年1月2日(英国時間)に国際科学誌「Nature」にオンライン掲載されました。


                                                              図1:研究の概要

論文情報

Akira Yokoyama, Nobuyuki Kakiuchi, Tetsuichi Yoshizato, Yasuhito Nannya, Hiromichi Suzuki, Yasuhide Takeuchi, Yusuke Shiozawa, Yusuke Sato, Kosuke Aoki, Soo Ki Kim, Yoichi Fujii, Kenichi Yoshida, Keisuke Kataoka, Masahiro M. Nakagawa, Yoshikage Inoue, Tomonori Hirano, Yuichi Shiraishi, Kenichi Chiba, Hiroko Tanaka,

Masashi Sanada, Yoshitaka Nishikawa, Yusuke Amanuma, Shinya Ohashi, Ikuo Aoyama, Takahiro Horimatsu, Shin’ichi Miyamoto, Shigeru Tsunoda, Yoshiharu Sakai, Maiko Narahara, J.B. Brown, Yoshitaka Sato, Genta Sawada, Koshi Mimori, Sachiko Minamiguchi, Hironori Haga, Hiroshi Seno, Satoru Miyano, Hideki Makishima, Manabu Muto, and Seishi Ogawa, "Age-related remodelling of oesophageal epithelia by mutated cancer drivers," Nature: 2019年1月2日, doi:10.1038/s41586-018-0811-x.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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