ハイパーカミオカンデ実験の予算検討会議の第7回会合に15カ国が参加 建設の進ちょく状況や必要な予算措置について議論
2027年の実験開始を目指して建設が進められるハイパーカミオカンデ計画(以下HK)について、実験に参加する関係各国が参加する第7回予算検討会議(HKFF)が2023年6月7日、東京大学本郷キャンパスで開かれました。HKFFは、2019年6月に開かれた第2回以降、COVID-19の感染拡大の影響でオンラインのみで開催されており、国内で開かれるのは4年ぶりとなります。日本を含めて15カ国(オンライン参加を含む)から政府機関関係者および研究者を加え約60人が参加し、計画の進ちょくや今後新たに必要となる予算などを確認。翌8日には岐阜県飛騨市神岡町にある建設中の現地サイトを初めて視察しました。
ハイパーカミオカンデは、現行のスーパーカミオカンデ(以下SK)の約8倍の有効質量を持つ巨大水タンクとそのタンクの中に並べる超高感度光センサーからなる実験装置と、J-PARC大強度陽子加速器(茨城県那珂郡東海村)により生成するニュートリノビームを組み合わせる国際科学事業で、陽子崩壊の発見やニュートリノのCP対称性の破れ(ニュートリノ・反ニュートリノの性質の違い)の発見、超新星爆発によるニュートリノの観測などを通し、素粒子の統一理論や宇宙の進化史の解明を目指します。同事業は2020年2月、日本で最初の予算が成立して正式にスタートし、これまで地下空洞の掘削や新型光センサーの製造、J-PARC大強度陽子加速器の増強などを進めてきました。一方で、各国政府による予算措置も順調に進んでおり、これまでイタリア、英国、カナダ、韓国、スイス、スペイン、ポーランド、モロッコからの予算の措置が確定。このうちポーランド、スペインとの間では、それぞれホスト機関である東京大学、高エネルギー加速器研究機構を含めた三者間での覚書が締結され、ハイパーカミオカンデ実験の推進に向けた正式な協力が約束されています。
この日のHKFFは、伊藤国際学術研究センター地下2階の伊藤謝恩ホールを会場にハイブリッド形式で開かれ、日本も含め19カ国の研究者や予算の担当者およそ40人が出席。ハイパーカミオカンデ実験の計画や建設工事の進ちょく、予算状況について議論が交わされました。
東京大学本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで開かれた第7回HKFFの会合
開会の挨拶に立った東京大学次世代ニュートリノ科学連携研究機構(NNSO)の梶田隆章機構長(東京大学宇宙線研究所教授)が、「コラボレーションは今や21カ国・500人以上に増え、世界一の実験施設を実現させるための国際協力が不可欠になっています。本日はプロジェクトの最新状況を共有し、各国の取り組みや今後の方針について議論したいと思います」などと述べると、東京大学の藤井輝夫総長は「本プロジェクトに十分な予算を確保するため、東京大学は文部科学省と密接に連携してきました。(中略) 東京大学自身も、大学債によって85億円をこのブロジェクトのために確保しています。(中略) しかしながら、検出器そのものや読み出し用の電子回路など実験装置に不可欠な部品で、どの国が予算を拠出するか決まっていないものが残っており、こうした議論ができるだけ速やかに決着することを望んでいます」と期待を語りました。東京大学と並ぶホスト機関、高エネルギー加速器研究機構の山内正則機構長は、「KEKはJ-PARCの大強度陽子加速器のビームパワーを1.3メガワット(MW)に引き上げるための改良に加え、中間検出器(IWCD)の建設に向けた準備など最大限のサポートを行なっています。世界中のニュートリノ研究者が結束し、新たな科学的成果を得られるようご理解とご協力をお願い致します」などと呼びかけました。
また、文部科学省の大学研究基盤整備課の黒沼一郎課長は「日本政府としては、本計画の実現に向け、これまでに総額 約206億円の予算を措置しており、引き続き、本計画の実現に向け、今後予定されている国際協力が円滑に進むよう最大限の支援をしていきます。また、国際貢献の実現に向けた正式な手続きとして、覚書の締結が始まったことを歓迎しており、ホスト機関のこのような取り組みが円滑に進むよう支援していきます」と語りました。
挨拶に立つNNSO機構長の梶田教授(左上)、東京大学の藤井総長(右上)、KEKの山内機構長(左下)、文部科学省大学研究基盤整備課の黒沼課長(右下)
続いて、宇宙線研究所の中畑雅行所長が、ポーランド、スペインとの間で実験推進に係る覚書が締結された様子や、ハイパーカミオカンデのトンネル掘削が順調に進み、検出器を納める大空洞上部のドームの直径が、SKの直径である40メートルを超えて52メートルに達したことなどを報告。プロジェクト共同代表の塩澤真人教授(宇宙線研究所)らは、海外各国が予算措置を決定したことに感謝の意を示したうえで、外水槽の検出器とデータの読み出し用の電子回路の設置、さらにIWCD建設などで予算が不足しており、早急に解決策を探る必要があることを報告し、各国に協力を要請しました。
参加14カ国がコメントを発表
プロジェクト運営サイドからの進ちょく状況の報告に続いて、アルメニア、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、イタリア、韓国、メキシコ、モロッコ、ポーランド、スペイン、スイス、英国、アメリカの各国代表が、参加する研究者の人数や予算獲得の見通しなどについてコメントを発表しました。
終盤の討論では、措置が必要となる予算を各国でどのように分担していくかについて話し合い、不足している予算については、2027年の実験開始に間に合わせるため、可能な限り早期に、できれば2023年度中に目処をつけるべく、各国が努力していく方針を決めました。また、今後はHKFFに代わり、各国の予算配分機関の責任者が出席するハイパーカミオカンデ計画財政監視委員会(HKFOP)を設置し、建設や維持運転の分担方法や財政計画の合意形成を確実に進めていく方針が提案されました。次回のHKFFは早ければ今年の冬、HKFOPに移行して開催されることになる見通しです。
翌朝から神岡へ移動、建設中の大空洞を視察
翌8日、一行は新幹線とバスを乗り継いで岐阜県飛騨市神岡町へ移動。まず研究棟に立ち寄り、中畑所長から神岡での研究の概要について、プロジェクトマネジャーの森山茂栄教授からハイパーカミオカンデの建設がどのように進められているかについて説明を受けました。そのあと地下に掘り進められたアクセストンネルや検出器を設置するための大空洞上部のドーム部分を視察。各国の担当者からはそのスケールの大きさに驚きの声が漏れました。
中畑所長から説明を受ける参加者
HKの大空洞を視察する参加者
HKFF第7回会議にオンサイトで出席したおよそ40人の関係者
ハイパーカミオカンデは、現行のスーパーカミオカンデ(以下SK)の約8倍の有効質量を持つ巨大水タンクとそのタンクの中に並べる超高感度光センサーからなる実験装置と、J-PARC大強度陽子加速器(茨城県那珂郡東海村)により生成するニュートリノビームを組み合わせる国際科学事業で、陽子崩壊の発見やニュートリノのCP対称性の破れ(ニュートリノ・反ニュートリノの性質の違い)の発見、超新星爆発によるニュートリノの観測などを通し、素粒子の統一理論や宇宙の進化史の解明を目指します。同事業は2020年2月、日本で最初の予算が成立して正式にスタートし、これまで地下空洞の掘削や新型光センサーの製造、J-PARC大強度陽子加速器の増強などを進めてきました。一方で、各国政府による予算措置も順調に進んでおり、これまでイタリア、英国、カナダ、韓国、スイス、スペイン、ポーランド、モロッコからの予算の措置が確定。このうちポーランド、スペインとの間では、それぞれホスト機関である東京大学、高エネルギー加速器研究機構を含めた三者間での覚書が締結され、ハイパーカミオカンデ実験の推進に向けた正式な協力が約束されています。
この日のHKFFは、伊藤国際学術研究センター地下2階の伊藤謝恩ホールを会場にハイブリッド形式で開かれ、日本も含め19カ国の研究者や予算の担当者およそ40人が出席。ハイパーカミオカンデ実験の計画や建設工事の進ちょく、予算状況について議論が交わされました。
東京大学本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで開かれた第7回HKFFの会合
開会の挨拶に立った東京大学次世代ニュートリノ科学連携研究機構(NNSO)の梶田隆章機構長(東京大学宇宙線研究所教授)が、「コラボレーションは今や21カ国・500人以上に増え、世界一の実験施設を実現させるための国際協力が不可欠になっています。本日はプロジェクトの最新状況を共有し、各国の取り組みや今後の方針について議論したいと思います」などと述べると、東京大学の藤井輝夫総長は「本プロジェクトに十分な予算を確保するため、東京大学は文部科学省と密接に連携してきました。(中略) 東京大学自身も、大学債によって85億円をこのブロジェクトのために確保しています。(中略) しかしながら、検出器そのものや読み出し用の電子回路など実験装置に不可欠な部品で、どの国が予算を拠出するか決まっていないものが残っており、こうした議論ができるだけ速やかに決着することを望んでいます」と期待を語りました。東京大学と並ぶホスト機関、高エネルギー加速器研究機構の山内正則機構長は、「KEKはJ-PARCの大強度陽子加速器のビームパワーを1.3メガワット(MW)に引き上げるための改良に加え、中間検出器(IWCD)の建設に向けた準備など最大限のサポートを行なっています。世界中のニュートリノ研究者が結束し、新たな科学的成果を得られるようご理解とご協力をお願い致します」などと呼びかけました。
また、文部科学省の大学研究基盤整備課の黒沼一郎課長は「日本政府としては、本計画の実現に向け、これまでに総額 約206億円の予算を措置しており、引き続き、本計画の実現に向け、今後予定されている国際協力が円滑に進むよう最大限の支援をしていきます。また、国際貢献の実現に向けた正式な手続きとして、覚書の締結が始まったことを歓迎しており、ホスト機関のこのような取り組みが円滑に進むよう支援していきます」と語りました。
挨拶に立つNNSO機構長の梶田教授(左上)、東京大学の藤井総長(右上)、KEKの山内機構長(左下)、文部科学省大学研究基盤整備課の黒沼課長(右下)
続いて、宇宙線研究所の中畑雅行所長が、ポーランド、スペインとの間で実験推進に係る覚書が締結された様子や、ハイパーカミオカンデのトンネル掘削が順調に進み、検出器を納める大空洞上部のドームの直径が、SKの直径である40メートルを超えて52メートルに達したことなどを報告。プロジェクト共同代表の塩澤真人教授(宇宙線研究所)らは、海外各国が予算措置を決定したことに感謝の意を示したうえで、外水槽の検出器とデータの読み出し用の電子回路の設置、さらにIWCD建設などで予算が不足しており、早急に解決策を探る必要があることを報告し、各国に協力を要請しました。
参加14カ国がコメントを発表
プロジェクト運営サイドからの進ちょく状況の報告に続いて、アルメニア、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、イタリア、韓国、メキシコ、モロッコ、ポーランド、スペイン、スイス、英国、アメリカの各国代表が、参加する研究者の人数や予算獲得の見通しなどについてコメントを発表しました。
終盤の討論では、措置が必要となる予算を各国でどのように分担していくかについて話し合い、不足している予算については、2027年の実験開始に間に合わせるため、可能な限り早期に、できれば2023年度中に目処をつけるべく、各国が努力していく方針を決めました。また、今後はHKFFに代わり、各国の予算配分機関の責任者が出席するハイパーカミオカンデ計画財政監視委員会(HKFOP)を設置し、建設や維持運転の分担方法や財政計画の合意形成を確実に進めていく方針が提案されました。次回のHKFFは早ければ今年の冬、HKFOPに移行して開催されることになる見通しです。
翌朝から神岡へ移動、建設中の大空洞を視察
翌8日、一行は新幹線とバスを乗り継いで岐阜県飛騨市神岡町へ移動。まず研究棟に立ち寄り、中畑所長から神岡での研究の概要について、プロジェクトマネジャーの森山茂栄教授からハイパーカミオカンデの建設がどのように進められているかについて説明を受けました。そのあと地下に掘り進められたアクセストンネルや検出器を設置するための大空洞上部のドーム部分を視察。各国の担当者からはそのスケールの大きさに驚きの声が漏れました。
中畑所長から説明を受ける参加者
HKの大空洞を視察する参加者