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量子ゆらぎが支配する2次元超伝導体の新規電子相を発見 量子計算へ向けた超伝導デバイスの実現へ

掲載日:2018年9月10日

ZrNCl-EDLTにおける温度-磁場相図
ZrNCl-EDLTにおける温度-磁場相図
電気抵抗ゼロの超伝導状態は微弱な磁場下しか実現していない(赤線)。極低温の領域では、ゼロ磁場から磁場を徐々に増やしていくと超伝導状態(赤線)→量子金属状態(低温・低磁場領域;青の領域)→量子Griffiths状態(低温・高磁場領域;オレンジの領域)→絶縁体状態と変化していく。高温側では熱揺らぎによる状態(高温・低磁場領域;ピンクの領域)になっている。
© 2018 斎藤優

東京大学大学院工学系研究科の岩佐義宏教授、斎藤優大学院生と東北大学金属材料研究所の野島勉准教授の研究グループは、セラミック半導体の一種でかつ2次元物質と呼ばれる層状窒化物・塩化窒化ジルコニウム(ZrNCl)と二流化モリブデン(MoS2)の高品質単結晶表面にイオン液体を絶縁層として用いる電気二重層トランジスタ(EDLT)構造を作製することにより、ZrNCl及びMoS2表面に厚さ1~2ナノメートルで、乱れの極めて少ない2次元超伝導を実現しました。さらにこの2次元超伝導体に磁場を加えると、低温におけるON(超伝導状態)とOFF(絶縁体状態)という2つの極低温での量子状態の間に、さらに2つの特殊な量子状態が現れることを発見し、それら4つの量子状態を連続的に磁場で制御することに成功しました。これらの研究成果は、今後、新たな2 次元超伝導体の研究分野を開拓する上の重要な礎になるだけでなく、将来的な超高速・量子計算のための超伝導デバイスや超伝導集積回路といった最先端ハードウェアを開発する上で重要な知見になることが期待されます。

電子デバイスの高度集積化が進む現代社会においては、物質のナノエレクトロニクスデバイスとしての側面に注目が集まっています。特に超伝導体の集積化は、超伝導量子ビットなど次世代の量子計算のためのコンピューティングシステムで重要なハードウェアを構成する基盤となる技術です。したがって、こうした超伝導体の集積化において不可欠な超伝導細線や超伝導薄膜の基礎的物性を解明することが広く求められています。しかし、1930年代から続けられてきた超伝導薄膜の研究では、試料作製の際に意図せずして含まれてしまう不純物や欠陥、非晶質性といった乱れのため、理想的な2次元超伝導体が本来示すべき量子状態の創出・解明にまで至っていませんでした。これが、2次元超伝導の学術的な理解や超伝導薄膜をベースとしたデバイス応用の方向性を限定的にしている要因でした。

今回研究グループは、セラミック半導体の一種である層状窒化物・塩化窒化ジルコニウム(ZrNCl)及び潤滑剤にも使われている二硫化リブデンの高品質な単結晶をスコッチテープ法により劈開し、厚さ20ナノメートルほどに薄膜化した後、その表面に電界効果トランジスタの一種であるEDLT構造という絶縁層にイオン液体を用いる特殊なデバイスを作製しました。このEDLT構造では、強電界によって電子が単結晶表面に蓄積しているため、蒸着等の従来の方法によって作製される超伝導薄膜に比べ、乱れの影響が極限まで少なくかつ厚さ1~2ナノメートルの超極薄の理想的な2次元電子系を人工的に実現可能です。本研究では、このトランジスタ構造で2次元超伝導体、すなわち電場で制御可能な超伝導トランジスタを作製しました。さらに面に対して垂直方向に磁場をかけた場合の磁気抵抗の温度依存性を測定することで、ON(超伝導状態)からOFF(絶縁体状態)の間に、量子金属状態と量子Griffiths状態という2つの特殊な量子状態を発見しました。これらの新規量子状態は2次元性と量子ゆらぎ、そして試料中に僅かに残る乱れの組み合わせ効果により初めて実現するもので、従来型の乱れの多い超伝導薄膜では観測されなかったものです。研究グループはこれらの特殊な量子状態を磁場によって精密に制御することにも成功し、包括的な磁場-温度相図を構築しました。

論文情報

Yu Saito, Tsutomu Nojima, Yoshihiro Iwasa, "Quantum phase transitions in highly crystalline two-dimensional superconductors," Nature Communications: 2018年2月22日
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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