アルツハイマー病などの新治療戦略へ期待 凝集化するタンパク質1分子の励起運動を初観察
難病に関わるタンパク質分子系において、溶解度よりも多くの分子を含む溶液状態で、1分子に着目した動態情報を抽出することは全く不可能でした。東京大学大学院新領域創成科学研究科の佐々木裕次教授研究グループが用いた超高感度1分子計測法であるDXTは、直径20ナノメートルの超微小金ナノ結晶をタンパク質分子の目的のアミノ酸位置に化学標識し、ナノ結晶の運動をX線回折観察から高速時分割追跡できます。本技術・コンセプトは、1998年に佐々木教授によって考案・実証されました。現在、DXTは世界最高精度で最高速度を誇る1分子動態計測技術です。このDXTは、今まで、1分子の高速計測を目的として利用されてきましたが、今回初めて、過飽和条件下でタンパク質分子のナノ微小領域動態計測に適用できることが分かりました。特に、実験で確認されていない結晶化前駆体が存在すると言われているタンパク質溶液条件下での測定を試み、タンパク質分子に標識した金ナノ結晶1粒子の回転動態を高精度かつ高速で実計測することに成功しました。DXTは、大型放射光施設SPring-8の高輝度準単色X線が利用できるビームライン(BL40XU)において実験を行いました。
本実験より、マイクロ秒時間スケールにおいて、安定なタンパク質溶液状態では、ナノ結晶動態回転速度が3.7 ミリラジアンにピークを持つ一方で、凝集状態になると、新たに9.5ミリラジアンのピークが現れることを確認しました。この結果は、佐々木教授のグループが2015年に発見した無機物質での励起運動でも確認された溶質密な条件下でのイオンネットワーク構造の存在を示唆するものであり、無機・有機系だけでなく、タンパク質分子でも共通する動態特性を確認したことになります。また、この激しいブラウン運動を金ナノ結晶に加わる力として換算すると、フェムトニュートンという微弱な力場が関与していることも確認できました。この動的凝集現象こそ、析出してもおかしくない高濃度条件において、タンパク分子が激しく動くことで、結晶化せずに溶液状態を保持できる重要な物理現象であると考えています。
論文情報
Y. Matsushita, H. Sekiguchi, JW. Chang, M. Nishijima, K. Ikezaki, D.Hamada, Y. Goto, Y.C. Sasaki, "Nanoscale Dynamics of Protein Assembly Networks in Supersaturated Solutions," Scientific Reports: 2017年11月1日, doi:10.1038/s41598-017-14022-7.
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